第8話ケーキより

「ほっとうにすみません! 」


と初手謝罪がこの店に響きわたった。

周りにいる客が仲村を見てくる。

そんな事を気にせずに目の前の

甘海 恵比あまうみ えびは店の机に頭をつけていた。

どうしてこうなったか。


一時間前


あの後、先生に呼ばれた後も中々誤解が解けなかったが諦めずに説明した所なんとか分かってもらえた。

すると今度は、


「本当にごめんなさい! 」


「あー!! 顔から火が出そう!」

などとさっきまでの自分の行為が自分の勘違いだった事に気づき、後悔と羞恥で先生達の前で泣き始めた。

その事に先生達も焦り、こうして解放されたわけだ。

そんな訳で職員室から出た先に中村は、そのまま帰ろうとしていた。

ちなみに罪罪は、余罪の事でまだ残されている。

いままでなんで来なかったのかや、今回のストーカーの事に関して先生達と話し合っている。

そんな感じに一人になった中村は、すっかり人がいなくなった廊下を歩いていた。

教室とは逆方向にある階段から昇降口を目指して歩いていた。

すると


「待ってください! 」


と階段の上の方からさっき聞いた声が聞こえた。

さっきほどの彼女がいた。

肩にはさっきまでなかったバックが掛けられていた。

先に解放されたはずだから、もう帰っていると勝手に思っていたが。

困惑している中村を気にせずに彼女は階段を降りてくる。

長い髪と同じように豊かな胸が階段を降りる度に揺れていた。

うわ! でっか。と思わず見てしまう。

しかし、その視線も慌てて上に上げた。

こいつにそんな事がばれたら即死するに決まっているからだ。

視線を上にあげると、自然と目が合う。


「さっきはすみませんでした! 何かお詫びをさせてください! 」


階段を降り終わった瞬間彼女は、頭を凄い勢いで下げていた。


「いやいやいや! 別に大丈夫ですって! 俺が悪いところもありますし。」


「そうですよね。謝って済む問題じゃありませんよね。」


彼女は頭を下げるのをやめて、こちらを見てきた。

さっきほど合わせた目には今にも零れそうなくらい涙が溜まっていた。


「いや、待って! 許してない訳じゃなくて」


「いや、許してもらえなくて当たり前なんです! 私はあなたにあんなに酷い事を! 」


聞かねえな!

こいつも罪罪とはベクトルは違うけど人の話を聞かないタイプだ!

そんな感じに会話がループして、最終的に俺が折れてお詫びを貰っていた。

まぁケーキを奢る的な感じを言われた。

その場所は、自分の家とは反対方面にあったが、それを言うとまた彼女が謝り始めそうなので黙っている事にした。

こっち方面は、行った事がなくしばらく進むと彼女は道からそれて森に入って行った。



「おい。こっちに店なんかあるのか?」


「ありますとも! 」


と言って楽しそうに歩いている。

この子の強引な感じは罪罪に似ている感じがした。

でも日が沈むのが遅くなったとはいえ、この時間に森になんか入って大丈夫なのか? と考えたが彼女の楽しみを壊したくはなかった。

周りは薄暗くなっていたが黙っている事にした。

しばらくぎりぎり道だと分かる場所を進んで行くとひらけた場所に着いた。

そこには小さな一軒家がポツンとあり、看板にはお菓子の家と書いてあった。

家の周りは、今いる場所の倍くらい木が生えており進めそうになかった。

まるでこの家がこの森の終点とも思わせた。

こんなおしゃれな店に行くのは始めてだったので外装をぼーっと見ていると


「何してるんですか? 行きますよ。 」


と言って木造の家の扉を開けていく。

置いていかれるよりはと思い、中村もおとぎ話に出てきそうな小屋に入っていった。

中は、外から見たよりももっとファンタジーな空間が広がっていた。

机や壁など様々なお菓子の形をしており、所々に本物のお菓子が置いてあった。

そんな中、もう一番奥に席を取っていた彼女がてを振っていた。


「ここに座りましょ! 」


「分かったよ」


勢いに押されるままここまで来てしまった。

俺だけなら絶対に行かない店だと思い、周りを見ていると


「どれにしますか? 」


とチョコレートの形をしたメニュー表を中村に渡してきた。

中村は、受け取ろうとしたがあることを思い出した。


「そういえば名前教えてもらってなかったけど」


「え? 同じクラスですよ! 」


「いや、話した事なかったし」


と聞いた彼女は、深いため息をはいた。



「話した事がなくっても名前くらいは覚えてください。甘海 恵比あまうみえびです。みんなからはアマエビって呼ばれていたはずですけど。」


「あー! 思い出した! そんな美味しいそうな名前してる女の子いた」


と自分がどれだけクラスメイトと関わりがないのか分かる会話だった。

しかし、この名前を覚えていないは中々失礼だと気がついた。

だが、アマエビは話を聞いておらず青い顔で肩に背負っていたバックをいじっていた。

何かあった事はもう目に見えていた為、何か聞こうとする前に


「財物、学校。忘れた」


片言で中々破壊力がある言葉がアマエビの口から出てくる事になる。


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