第7話目覚めの耳かみ
昼休みが終わっても中村は、あの言葉が頭から離れなかった。
それは授業が始まってからも集中出来ずにぼーっと黒板を眺めていた。
「だから、逃げないでくださいね。先輩」
そうだ。俺はいつでも逃げられるはずなんだ。
だから、今のこの状況は俺の意思で作られていることになる。
「何やってるだろうなー。俺」
と静かに呟いた。授業とは違うところで頭を使っていたせいか。
そう考えている内に中村は、ゆっくりと意識を落とした。
「せんぱーい」
と自分を呼び声が聞こえた。
体も弱めに揺すられていた。
ただその声の主は中村の悩みの種だった為寝ているのを続けようと思った。
「先輩ったら~。しんでるですか?」
と揺らすのを強くしていくが当然寝たふりを続けていた。
しばらくすると、諦めたのか中村の周りが静かになった。
帰ったかと思い目を開けようとすると耳に奇妙な感触が走った。
「はむはむはむ」
と声が右の耳の近くから聞こえる。
まさかと思い急いで目を開けた。
そこには当然罪罪がいて、耳をしゃぶるように口で食べていた。
「何してんだ!罪罪!」
と感情に任せて席から立つ。
周りを見ると今はどうやら放課後らしく俺は結構寝ていたらしい。
今クラスにいる生徒は少なかったが何人かは残っており、チラチラとこっちを見ていた。
唾液まみれになった耳をティッシュで拭く。
「なんだ~。生きているなら生きているって言ってくださいよ。」
いつものようにニヤニヤとこちらを見ていた。
「おま、後輩から頑張って感じの事言ってただろ! 」
「だから起こしにきたんじゃないですか。中々こんな健気な後輩いませんよ」
「いや確かに中々いないわ! いや、絶対にいないわ!! 」
「もう~。そんなに誉めないでくださいよ。流石に照れちゃいます」
と嬉しそうに顔を赤らめていた。
こいつ無敵かよ。
どんな返しをしても都合のいい場所だけを切り取る天才にどうする事も出来なかった。
「ちょっとあんた達! クラスの中で何しているの! 」
と前の席から髪の長い女子生徒がこちらに向かってきた。
身長は自分と同じくらいだろうか。
顔を見るに大分怒ってるように見えるが
「こっちに来なさい!」
と言われて罪罪と俺は手を掴まれて教室から出された。
そして廊下で
「別にいちゃつくのは構わないけど場所ってものを考えなさいよ! 」
と言ってきた。
何故か怒りの矛先は自分に向いていた。
何か言い返そうとするが、
「あんな事を彼女にしかも教室でさせるなんて」
長い髪の女子生徒はどんどん顔が真っ赤になっていく。
「いやいやいやいや! 何で俺が強制させたみたいになってるんだよ! 」
「言い訳するの! 彼女からやってきたなんて言うつもりじゃないでしょうね! 」
くそ! このままやっても勝てる気がしないしここは罪罪に話して貰うしかないか。
と罪罪を見ると目がかなり濁っていた。
その目は俺の方を向いて短く
「浮気? 」
と長い髪の女子生徒を指して言った。
「今のやり取りでどこにそんな要素があった!? 」
「あなた彼女がいて浮気までしてるの!? ほんっと最低ね! 」
「あー!! お前はもう黙っていろ!」
「暴力で解決するなの! なんて奴かしら」
どんどんお互いがヒートアップして行くのを感じる。
廊下でこのケンカ? みたいのをやっているためどんどんギャラリーが集まってきた。
ひそひそと
「え? 何? 三 角関係? 」
「浮気したんだってさ。あの男が」
「かわいそうー」
と中村を非難する声があちこちから聞こえた。
どんどんこいつらが話せば話すほど俺は悪い奴になっていった。
もうこの負のスパイラルから出してくれ!
その願いは30分後にきた騒ぎを聞いた先生がやって来てかなうことになる。
ちなみに俺が一番怒られた。
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