第30話 幼馴染を救え!

 剣の岩山に近づくにつれて、モンスターと遭遇する確率がグッと上がる。

 まるでジェシカが、俺達が近づくのを拒むかの様に。


「モンスターは魔王の下僕ですよね。何で俺達に襲い掛かって来るんですか?」


 俺達は魔王の下僕だ。

 つまり、モンスターは俺達の仲間でもある。

 だけど、そんなことお構いなしにモンスターは突っ込んで来る。

 俺はオリハルコンに付いた血をクロスで拭いながら姫に問い掛けた。

 足元には先ほど切り捨てたポイズンハウンド(毒の牙を持つ野生の犬)の、腹がパックリ開いた死体が転がっている。


「この辺だとジェシカに従ってるモンスターも多いわ」

「なるほど」


 この大陸における魔王の支配力は絶大では無いということか。


「魔王の敵は王国だけじゃなかったのね」


 カラムも俺と同じことを思っていた。

 最終的にこの大陸を制するのは一体誰なのか。

 王国か、魔王か、それとも魔王の元カノ達なのか。

 王国を裏切った俺にとって、それはどうでもいいことだった。

 俺は姫を振り向かせることが出来ればそれでいい。

 王様の最後の言葉。


「シュキイ姫を頼む」


 王様と交わした約束を守ること、それが俺の贖罪であり希望だった。

 その時、


ガササ!!


 草むらから蛇竜が、飛び出してきた。

 文字通り蛇の体、そして竜の頭を持つ、体長3メートルほどのモンスターだ。

 3匹ほどで群れをなしている。

 その内の一匹が、俺達パーティに襲い掛かって来る。

 大きく開いた口。

 むき出しの歯茎からは無数の不揃いの牙が生えている。

 俺はカラム、姫の前に立ち塞がり、口を開げ食い掛かって来る竜の口中にオリハルコンの刺突をお見舞いする。

 蛇竜が叫びにならない断末魔をあげながら、長い尾をばたつかせる。

 オリハルコンを引き抜くと、蛇竜は喉奥から間欠泉の様に血を吹き出し息絶える。

 恐れを知らない残り二匹、それが仲間の仇とばかりに俺に襲い掛かる。

 俺は二匹同時に撫で斬りにしようと、剣を左斜めに構えた。

 来た。

 俺は次の動作に入ろうとした。

 左斜めから右下に一閃に切り捨てる。

 刹那、二匹が目の前で二手に分かれる。

 それぞれが、カラムと姫にそれぞれ襲い掛かる。


「しまった!」


 始めから俺を襲うと見せ掛けて、後ろの二人を狙うつもりだったのか。

 俺はソロ戦に慣れ過ぎていた。

 今は、パーティの仲間のことも考えるべきだった。


「ホムラ!」


 カラムの手のひらから、火の玉が飛び出した。

 蛇竜はその炎を避けた。

 わずかに髭が焼け焦げただけ。

 

「くっ……」


 カラムが呻く。

 カラムは詠唱の時間を取ることが出来ないくらい距離を詰められた。

 彼女は腰から鋼の剣を取り出した。

 そっちは何とかなるか。

 俺は姫の方に視線を転じる。

 今まさに、蛇竜のもう一匹が姫に襲い掛かろうとしていた。


「きゃっ…!」


 姫を素早く身をひるがえしたが、蛇竜はスルスルと地を這って着地点で待ち受ける。

 運よく姫は蛇竜の胴体を踏みつけた。

 蛇竜は息が出来ずのたうち回っている。


「ユキイチロウ、早く助けて!」


 逃げまどいながら姫が叫ぶ。


「ユキイチロウ、こっちも手伝って!」


 カラムが蛇竜に苦戦している。


 俺は姫とカラムの状況を交互に見やった。


 カラムの身体に、蛇竜が巻き付いている。

 締め付けられた胴体が紫色に変色し始めている。

 かなり危険だ。

 彼女は唯一自由な右手で、巻き付いた蛇の身体を必死に銅の剣で切り付けている。


 姫はどうだ?

 攻撃魔法も使えない、武器も木の棒くらいしか持っていない姫は、逃げ回るしかない。


(どっちを救う?)


 答えは明白だ。


つづく

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