第28話 俺の葛藤
「元カノ……?」
俺の頭の中で、魔王と元カノという単語が上手く結びつかない。
そもそも魔王が誰かと仲良く付き合うとか、相手と手を繋いでラブラブなご様子で街を歩くとか、そういう姿を想像出来ない。
「魔王って沢山の人を泣かせてそうだよね」
すっかり元気になったカラムが、横から口を挟む。
「シュキイ姫も、振られない様に頑張ってね」
からかいの言葉を、恋敵にぶつける。
「魔王様は、そんな人じゃない! 私の一途な想いを受け止めてくれるはずっ!」
カラムの言葉を真に受け、耳まで真っ赤にして反論する姫。
俺もそんな風に彼女に想われたいものだ。
俺は魔王が羨ましい。
「で、その魔王が何で元カノを殺したがってるんですか?」
俺は話が見えてこないので、核心に迫った。
「まず、この大陸には魔王様の元カノが4ついる」
姫は右手の指を4本立てた。
あえて『4つ』と言うことは、人ではないということか。
魔王は一体どういう性癖をしているのか……
というより、魔王自身も人ではないのだが。
「その1つ、剣の岩山に住むジェシカを殺して欲しいの」
「ふむ……」
俺にはそのジェシカについて、予備知識は全く無かった。
そして、姫の答えは俺の質問の答えになっていなかった。
「で、何故、ジェシカを?」
「王国の者達が、魔王討伐のためにジェシカを味方につけようとしてるの」
きっと、兵士達の目撃情報から王様を殺したのは俺だということがバレたのだろう。
俺が王様に寝返ったと知った王国の者達が、俺と魔王に対して全面戦争を仕掛けて来てもおかしくは無い。
「ジェシカは強力な魔物……。そして今でも自分を振った魔王様を恨んでいるの。王国の者達と手を組めば魔王様にとって強力な敵となる。それだけは避けたいの」
姫の顔はいつになく真剣そのものだった。
魔王を想う姫の気持ちは、俺の心を締め付ける。
「勝手なことばっかりお願いしないで! もうこれ以上、ユキイチロウを苦しめないで!」
カラムが顔を真っ赤にして姫を怒鳴りつける。
俺は彼女の優しさを愛おしく思う。
と同時に、その優しさは時に、俺と姫との仲に距離を作る。
だからカラムよ。
黙っていてくれ。
「ユキイチロウ、どうするの? 私のためにやってくれるよね!」
姫はカラムを無視した。
そんな姫が、期待を込めた笑顔で俺に訴えかける。
俺の背後で、無視されたカラムが両の拳を握り締め震えている。
王国は、姫の父親である王様が死んだことで混乱している。
魔王はそれを狙って、俺に国王を殺しに行かせたのだ。
シュキイ姫をだしに使ってまで。
その内、家来同士で次期王様になるための争いや内乱だって起きるだろう。
それは王国の崩壊を招くことになる。
王国としてそれだけは避けたい。
だから、魔王の元カノ(ジェシカ)を手を組んで、魔王への巻き返しを図ろうとしているのか。
「王様を殺すだけじゃ、魔王は満足しないのですね……」
姫は俺の言葉にうなずく。
俺は、ジェシカに恨みなど無い。
王国をこれ以上苦しめたくもない。
俺は、一体どれだけ悪を貫けばいいのか。
「シュキイ姫を頼む」
王様は死の際、俺にそう言った。
姫を振り向かせるために、生きて来た。
だけど、今になってそれが自分を苦しめている。
だが、姫を諦めれば楽になるのか。
否。
それが、自分をもっと苦しめることも分かっていた。
つづく
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