第26話 頑固な医者

「そんなに魔王のことが好きなら、魔女にでもなればいいのよ! このっ……」


 カラムはシュキイ姫に対して、聞くもおぞましい呪詛を吐いた。

 その瞬間、カラムは自分が吐いた言葉の呪いにあてられたのか、顔が真っ青になりふらついた。


「大丈夫か!?」


 俺は咄嗟にカラムの体を支えた。

 華奢な肩は俺の手の平の中で小さく震えていた。


「今すぐ治してやるからな」


 緑の薬草を煎じて煮詰めるのも時間が掛かる。(何より俺はその方法を良く知らないし、そんな道具も無い)

 乱暴にも俺は、彼女の小さな唇をこじ開けて、その中に無理やり薬草を突っ込んだ。


「うえ! うえぇっ!」


 俺の荒療治にカラムがえずく。

 このままじゃ、カラムが病気から回復しない。

 そうしている内に、カラムは意識を失った。


「姫、どうすればいいですか?」

 

 俺は救いを求める様に姫を見た。

 だが、姫はサディスティックな眼差しをカラムに向けたまま、一言も発しない。


「姫!」


 俺は地に額を擦りつけ懇願した。


「ユキイチロウがそこまでお願いするなら、この女を助けてあげてもいいわ」


 カラムの肩がピクリとした。

 意識を取り戻した。

 荒い息をしながら、目の前の恋敵をじっと睨みつけている。


「ユキイチロウ……私は……大丈夫、だから……」

「カラム……」


 姫はカラムが苦しむ様子をじっと見ていた。

 そしてこう言った。


「意地っ張りねぇ。我慢しないであなたも私にお願いしなさい。このまま死んだらユキイチロウを追いかけることも出来ないわよ」


 姫はカラムのことを見下ろし、非情な言葉を投げつけた。

 俺は姫のことを好きだ。

 だけど、この態度には腹が立った。


「シュキイ姫! あなたが子供の頃から治癒魔法や薬学を学んだのは何のためなのですかっ!」


 俺の叫びが洞窟に反響する。

 姫は目が点になっている。

 無理もない、今まで嫌われまいと媚びへつらって来た俺が立てついて来たのだから。


「国民を救う医者になりたいって、あの時、俺に言ったのはただのでまかせだったのか!」


 姫は俺から視線をそらした。

 そして、手の平をカラムの額にかざす。


「デトキシケーション!」


 暖色系の淡い光がカラムを包んだ。


「はっ……」


 カラムの顔に生気が戻り、頬に朱が差す。


「シュキイ姫……」


 治癒魔法を行使する彼女は、美しい。

 僕は彼女に惚れ直した。


「ここに来る時、毒の沼を通ったでしょ?」


 カラムに問いかける。


「そんな覚えは……安全な道を選んで来たはず」


 カラムが俺の方に顔を向ける。

 俺も頷いた。


「ビリジアンの森。あなたたち、そこを歩いて来たでしょ?」


 だって、足跡があったから。

 姫はそう言った。 

 姫は俺達の後をつけていた?

 だとしたら、一体いつから?

 

「あの森には、毒の蛭がいる。知らない間に噛まれたのよ。きっと」

「姫は大丈夫だったんですか?」

「私は蛭除けの魔法掛けてるから。それより、カラム、言うことあるんじゃないの?」


 カラムは唇を噛み締め、悔しそうに


「……ありがとう」

「良く出来ました」


 姫はカラムの頭をポンポンと叩いた。


つづく

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