第25話 三角関係
カラムと離れると、やはり思い出すのは姫のことばかりだった。
「魔王の元で、どんな夜を過ごしているんだろう」
暗くなりかけた空を見ながら、呟いた。
その名前を口にしただけで、何だか切なくて今にも会いたくてたまらなくなった。
頬を熱いものが伝う。
あ、俺、泣いてらあ。
涙が顎を伝う。
まるでスローモーションの様に、ゆっくりと地面に向かって落ちて行く。
涙が土に吸い込まれる。
「あ」
その横に緑の薬草が生えている。
「シュキイ姫が言ってた……全回復するレアな薬草だ!」
俺はその薬草を摘んで、布袋に入れた。
これでカラムは病気から回復する。
俺は旅を続けられることを嬉しく思った。
「シュキイ姫、ありがとうございます」
姫がどこかで俺とカラムのことを見守ってくれている様な気がした。
「さてと」
次は食料を探さなきゃ、だな。
そう思って、歩き出した時、
「ピーーーー!!」
カラムに渡した象牙の笛の音が、聴こえた。
カラムの身に何かあったに違いない!
そう思ったユキイチロウは、急いで洞窟に戻った。
「ユキイチロウ、久しぶり!」
そこには姫がいた。
「ひ……姫?」
俺は自分の目を疑った。
ほっぺたをつねってみた。
痛いので、夢ではないらしい。
「ユキイチロウ、私よ。シュキイよ。魔王様の城で会って以来ね」
姫の声を久しぶりに聞いたユキイチロウは、
「姫……本当に、姫なんですね!」
俺はひざまずいて、泣き崩れた。
「王様を殺してしまいました……すいません」
俺は姫に謝った。
そして、洞窟の隅に置いてある、袋に入ったままの王様の首に手を合わせた。
「いいのよ、これも魔王様のためなのだから」
魔王のため、否、「俺は姫のために王様を殺したんだ!」と言いそうになった。
だけど、その言葉をグッとこらえた。
「あのさぁ……」
姫の背後には、カラムの妬みをはらんだ三白眼が光っていた。
「感動の再会だか何だか知らないけど、あなたのせいでユキイチロウは王様を殺して、国まで追われてるんだからね。そこ、ちゃんと分かってあげてるの?」
カラムは立ち上がった。
病で臥せっていたが、恋のライバルが現れたことで、彼女の闘志に火がついたのだろう。
「あら、カラム。久しぶりね。相変わらず、口のきき方がなってないわね」
「はぁ!? 魔王なんかにゾッコンの、あんた何かに言われたかないわよ! この裏切り者が!」
女は男なんかより全然強い、そして怖い生き物だ。
俺はそう思った。
元々、シュキイ姫とカラムは子供のころから仲が悪かった。
それは、趣味が同じで、欲しいものが同じだったりすることも原因の一つだった。
とにかく、玩具や動物、音楽や、武器や防具に至るまで、同じものを欲しがるから取り合いになる。
そして、姫にとっては、王様がカラムの魔法の才能に目を付け、自分より可愛がってきたことが気に食わなかった。
カラムはカラムで、俺の片思いの相手であるシュキイのことが気に入らなかった。
「まあまあ……」
俺は二人の間に立って、たじたじだった。
ところで、姫、何でここにいるの?
つづく
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