第22話 君と一緒なら、どこまでも
「行こう!」
俺は思わず、カラムの手を取り走り出していた。
「……はい」
カラムは小さく頷いた。
顔が赤い。
こんな状況になっても、俺に手を取られ、一緒にいられることが嬉しいのか。
「ユキイチロウを捕えろ!」
兵士たちが追いかけてくる。
「待て!」
逃げる先に兵士達が待ち構えていた。
「捕えよ!」
隊長の号令と共に、俺を捕まえようする。
だけと、俺の敵では無かった。
城にいる兵士のレベルは、せいぜい10くらいで、たまに強いのがいても15くらいだった。
城内の防衛と、城外の視察くらいしかしたことが無い兵士など、魔王を倒すために旅を続けてきたレベル40の俺にとっては赤子同然だった。
「ぎゃっ!」
「うわ!」
「急所は外したから大丈夫だよ!」
俺は、剣で切りつけた兵士を安心させるために、声を掛けて行った。
カラムを連れて、王の間を出て、城門をくぐり城下町に出た。
城下町では事情を知らない市民たちが、
「おっ、ユキイチロウだ!」
「カラムと手をつないでデートか!?」
「シュキイ姫が怒るぞ!」
事情を知らない人々が、口々にはやし立てた。
「ユキイチロウ、これ食べろ!」
八百屋の主人が、走る俺にリンゴを投げて来た。
それを受け取った俺は、一口かじった。
甘酸っぱいリンゴを、隣にいるカラムに渡した。
「美味しい!」
「やるよ」
「ありがと……」
リンゴみたいに顔が真っ赤だぜ、カラム。
やれやれ。
兵士たちが後ろから追いかけて来た。
「ユキイチロウを捕まえたものは、褒美をやるぞ!」
「やつは王様を殺した裏切り者だ!」
呼びかけることで、国民の協力を仰いだ。
だが、俺を良く知る国民は
「何かのドッキリだろ?」
「お祭りの出し物だろ、この騒ぎは」
と、あの真面目で優しいユキイチロウが?と、まったく取り合わなかった。
「ビュン! ビュン!」
逃げる俺の背に、追いかける兵士が弓矢を放った。
その弓矢の何本かが、俺ではなく国民を射た。
「ギャッ!」
「ウワッ!」
一人の兵士が騒乱から抜け出し、俺に切りかかって来た。
「危ない!」
カラムが『
兵士と国民が乱闘し始めた。
カラムの手を取り、俺は城下町の出口に向かった。
「やっと出れた」
遠くに城を見ながら、俺はつぶやいた。
カラムがこっちを向く。
「これで、私もユキイチロウと同じ、裏切り者になっちゃったね……」
「ごめん……」
「いいよ……ユキイチロウと一緒なら。裏切り者でも、何にでもなるよ」
王国を飛び出した二人は、広い草原に立っていた。
つづく
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