第18話 勇者は、裏切り者だ!

 --王様が寝静まったのを確認してから、殺しに行く。


 俺はそう決心した。


 シュキイ姫がそれで喜ぶなら迷いは無かった。

 王様には恩を仇で返すことになるが、それは仕方が無かった。

 


 何かを得るには、何かを捨てないといけないのだ。



 愛するシュキイ姫のために、俺は王様を殺すことを選んだ。


 そんなことを悟られない様に、俺は、王様そしてカラムはお茶を楽しんでいた。


バアーン!


 その時、応接間の扉が荒々しく開かれた。


「ユキイチロウ! この裏切り者め! よく王様とお茶なんか出来るな!」

「ツヨシ……」


 俺は言葉を失った。

 俺との戦いに敗れた戦士ツヨシは生きていた。


「ツヨシ……その傷は一体!? 魔王のモンスターにやられたのか」


 王様が心配そうな声を上げる。

 魔王オークルの城から、王様の元へ戻るときに、俺はツヨシと戦う羽目になった。

 その戦いで俺はツヨシを殺したつもりでいた。


 だが--


 ツヨシは砂漠を超え、山、谷を越え、毒の沼を超え、俺が裏切り者であることを王様に伝えるために戻って来たのだ。


「王様、よく聞いてください。そこにいるユキイチロウは魔王に寝返った。王様、あなたを殺すためここに来たのだ!」

「本当なのか……? ユキイチロウ」


 王様が問い掛ける。


「くっ……」


 俺は何も言えなかった。

 苦しそうな俺の横顔を、カラムが心配そうな顔で見ている。


「今から、証明してやるよ!」


 ツヨシは腰にぶら下げた布袋からゴーレムの首を取り出した。


「キャア!」


 カラムが驚いて顔を手で覆った。


「しゃべろ!」


 ツヨシは首だけになった瀕死のゴーレムの首に命令した。


「そこにいる勇者は、魔王様の下僕になった。そして、魔王様の命を受け、王を殺しに戻って来たのだ」

「なんじゃと……」

「お前の娘は魔王に恋をした。だから、その娘を好きなそこの勇者は、魔王の言うことを聞くことにしたんだ。全てはお前の娘のためにな」


 しゃべり終わったゴーレムの首を、用無しとばかりに、ツヨシは切り刻んで捨てた。


 俺は無言で、ツヨシに切りかかった。


つづく

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