第17話 片思いの野望

「ふふふ……」


 カラムは笑い出した。

 俺は彼女が泣くかと思っていた。

 その意外な反応にびっくりした。


「いつか、あの女から奪い取ってやるからっ!」


 カラムは強い表情で、俺に言った。

 俺は返事に困り、黙り込んだ。


 その時、召使が二人を呼んだ。


「ユキイチロウ様、カラム様、王様がお茶にお呼びですよ」

「分かった」


 俺は頷くと、


「行こう」


 と、カラムを誘った。


「後で行く」

「分かった」


 俺は先に行った。

 背中に刺すような視線を感じる。


「うっ……ううっ……うああああっ」


 鳴き声が聞こえて来た。

 まるで今まで我慢していたものが弾けたかの様な……


 王の間。

 長テーブルには、クッキーと紅茶が、用意されていた。

 王様と向かい合うように、俺とカラムは座った。


「カラムは、お主が旅に出ている間に、レベルが15になったぞ」

「さっき、カラムと手合わせしたのですが、かなり魔法が出来るようになってますね。頼もしいです」

「剣での攻撃が効かない敵には、魔法使いが必要だからな。うむ、もっと修行してもらって、強い魔法を覚えてもらわねば。のう、カラム」

「……はい」


 彼女は剣の使い手になり前線で俺と戦いたいのだろう。

 俺はその思いを知っているので、彼女の横顔を見るのが辛い。


「ユキイチロウが魔王を倒し、姫を無事に助けることが出来たら、是非、姫を嫁に貰ってくれ」

「えっ!」


 俺は驚いた。

 そうしたいのはやまやまだが……


「そして、ユキイチロウにこの国を譲ろうと思う」

「そんな、大役は私には……」

「わしの理想を叶えてくれ。王国の国民を第一に考えた統治をしてくれ。お主なら出来る」

「はい」

「他の国からの移民は追い出すこと。A国との同盟を強化し、B国に対抗するのじゃ。それが優先じゃ」


 俺はシュキイ姫との会話を思い出した。


◇◇

「父上は間違っているわ」

「何故そう思うのです?」

「父上は、移民を追い出して、自分の国の国民さえ良ければいいという考えだわ」

「そんなことはありません! 王様はまず自分の国を立て直して、それから他の国の移民も受け入れて発展することを考えているのです」

◇◇


 先代の王様が、他国を助け過ぎたため王国は貧しくなった。

 そこに、移民の大量受け入れが原因で、国民の仕事が奪われ反発も受けている。

 そこに魔王が現れシュキイ姫を連れ去ってしまった。

 今の王様は、姫を助け、魔王を倒し、国民から慕われている俺を王にして、国を立て直そうと考えている。


「ところで、ユキイチロウよ、新しい武器と防具、そして金を用意しておいたぞ。いつ旅立つ?」

「……明日には……」


 あまり時間を掛けるわけにはいかない。


 王様を殺すには今日の夜しかない。


「そんなに早く?」


 カラムが訊ねる。


「うん、こうしてる間にも姫が危ない」

「……そうだね」


 カラムは悲しげな顔になった。


つづく

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