第16話 はじめての人

「あんな姫のことなんか、忘れさせてあげるから」


 覆いかぶさったカラムは、俺の服のボタンに手を掛けた。

 カラムの「イカヅチ」の魔法で感電して動けない俺は、されるがままだった。

 城の中だということで安心して、鎧を脱ぎ捨てていた。

 それはカラムにとって幸運だったことだろう。


「や……やめてくれ……」


 何とか口だけは動く。

 俺にはシュキイ姫がいるんだ。

 城の庭には、二人以外誰もいない。

 昼の時間帯は城の者は皆、城内で仕事したり、城外での警備に出ている。


「んっ……」


 口を封じられた。


(こいつの唇……こんなに柔らかかったんだ……)


 ずっと、子供とばかり思ってた。

 だけと、カラムは女に成長していた。

 俺は姫のことを忘れかけ、ボーっとした。

 このまま身を任せてしまいそうになる。


「わたし、初めての人は、ユキイチロウって決めてたの」


 赤ん坊の頃、俺とカラムは同じ日に、同じ場所で捨てられていた。

 城の城門の前に捨てられていたのだ。

 隣国や魔王との戦いで疲弊し、貧困にあえぐ王国は、こうした捨て子が後を絶たない。

 自分に力が無いせいで、こんな子供が増えていることを悲しんでいる王様は、自分の罪滅ぼしのために、こうした子供を拾っては育てていた。


 王様は他にも捨て子を育てていたが、俺とカラムは、シュキイ姫とともに兄弟姉妹のように育てられた。

 王様が俺には剣の才能を、カラムには魔法の才能を見抜き、特別に育てていたというのもある。

 息子がいない王様は、国を継ぐシュキイ姫を守護するものとして、俺を中心にメンバーを考えていたのである。


 --だが世の中は、思った通り行かない--


 シュキイ姫は魔王オークルのことを好きになり、

 カラムは、俺が好きなシュキイ姫に嫉妬し、

 俺は、好きな姫のために、今のところ魔王の側について、王様の命を狙っている。


 全員が、やりたいことをやったら、今の結果だった。


「一緒になったら、私のこと、ユキイチロウも好きになるよ」


 カラム……

 ユキイチロウはこのまま身を任せたらどんなに楽だろうか、と思った。


 その時、頬の傷がうずいた。

 子供の頃、シュキイ姫をモンスターから守った時、負傷したときの傷。


「……姫」


 俺は無意識に、そう言っていた。

 そして、不思議なことに感電していた体が動くようになった。


 覆いかぶさったカラムを静かに、退けるとこう言った。


「ごめん……俺は、やっぱり姫のことが好きなんだ」


つづく

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