第11話 誰のための戦い

「この裏切り者め!」


 ツヨシは俺に向かって斧を振りかざした。

 俺は、それを寸前のところで避けた。


「違うんだ! 俺は魔王のために戦っているんじゃない!」

「じゃあ、誰のために闘っているんだ!」

「姫のためだ!」

「何だと!?」

「俺は姫を愛しているんだ! だから姫が愛している魔王の言うことを聞かなければならないんだ!」

「それが、王様を裏切っていることになるんだ!」


 ツヨシはさすがの斧さばきで、俺を追い詰めていった。

 レベル35のツヨシはレベル40の俺より、レベルは低いが、体力や武力の面では優れていた。

 そして、戦いに飢えていた戦士は、ここぞとばかりに力を発揮してきた。


ドン。


 いつの間にか、背に岩壁がある。

 俺に退路は無かった。

 俺はツヨシの闘争心に押されていた。


「喰らえ! 黄金のゴールデンアックス!」


 ツヨシの斧が一瞬黄金に輝いた。

 この一閃をまともに喰らえば、死んでしまう。


ガキイイイ!!


 その時、トロルが後ろからツヨシに襲い掛かった。

 仲間の仇を討たんとばかりに。

 トロルの一撃で、意識がもうろうとなったツヨシは、地面に手を付いた。

 それを見逃さなかった俺は、戦士ツヨシの背中に剣を突き立てた。

 その剣を引き抜くと真っ赤な鮮血を胸から噴き出して、戦士ツヨシは倒れた。

 トロルの助けが無ければ、命を落としていた。


「ありがとう」


 俺は、トロルに礼を言った。


「礼には及ばん、俺は仲間が殺された仇を討っただけだ」


 大きなサイズのトロルは、向こうに倒れている首がなくなった二体の普通サイズのトロルを見ていた。


 俺は、仲間を殺してしまった。

 兄貴分と慕っていた仲間を。

 だが、感傷に浸っている暇は無かった。

 城への旅を進めることにした。


「今は魔王の言うことを聞き、姫から信頼を獲得することが、俺のやりたいことなんだ」


 自分に言い聞かせた。


 砂漠を超え、洞窟を抜け、毒の沼を抜けると、王国の城が見えて来た。

 魔王の配下にいるモンスターが襲ってこなければ、こんなにも楽な旅であることに、俺は驚いた。


 城の前に広がる城下町に一歩足を踏み入れると、町民たちが労ってくれる。


「勇者ユキイチロウが帰って来た!」

「おかえり!」

「魔王を倒したんだね!」

「姫はどこだい!?」


 俺が姫を連れて帰ってこないことに疑問を持つ町民もいた。

 だが、俺は答えなかった。

 俺は城へ向かって歩いて行った。


「ユキイチロウ!」


 聞き覚えがある声に振り向くと、そこには弟分のタツヤがいた。

 彼は、王様の側近である防衛大臣の息子だ。

 魔法と剣を均等に使いこなし、賢者との異名をとる。

 レベルは22だ。

 王様に拾われた俺と、大臣の息子であるタツヤは立場は違えど、兄弟のように仲が良かった。


「タツヤ!」


 それまで緊張していた俺は、親しい仲間の登場に、思わず笑顔で振り返った。


「魔王は倒したのか?」

「いや……まだ。ちょっと体勢を立て直しに戻って来たんだ」


 弟分であり親友でもあるタツヤに嘘を付くのはためらわれた。

 背中にタツヤの視線を感じる。

 城門の前の兵士に告げた。


「王様に会いたい」


つづく

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