第10話 狂った戦士
「ユキイチロウ、ここに居たのか!」
「ツヨシじゃないか! どうしてここに?」
俺に声を掛けて来たのは、屈強な鉄の鎧に身を包んだ戦士だった。
俺の兄貴分。
肉弾戦が得意な斧の使い手だ。
魔法はからっきし使えない。
「王様からお前の様子を見てこいと言われたんだ」
「そうなのか……」
「俺が来たからには百人力だぞ。さっきもそこで二体のトロルを俺一人で倒したぞ!」
嬉しそうにツヨシが指さす先に、首のない二体のトロルが倒れていた。
残酷な倒し方だった。
俺は、ツヨシが血を好み戦いを愛する狂った戦士だということを知っていた。
きっと世界が平和になっても戦いを求め続けるのだろう。
彼にとっては、世界平和よりも戦いが必要なのだ。
「レベルはいくつになったんだ?」
「今のトロルで、35になった」
「そうか……」
この世界では戦いに勝つことで経験値が手に入り、レベルが上がる。
レベルが上がれば各種パラメータも上がる。
特性を持つ者は、魔法やスキルだって覚える。
戦士であるツヨシは、様々な武器を使えるスキルを身に着けた様だが、好んで斧を使っていた。
「俺と魔王の城まで一緒に行こう!」
俺の肩を叩く。
戦いたくて仕方が無いようだ。
「俺は、一旦城に戻る。色々と立て直すために」
「何だって!?」
「魔王は強い、今の俺では勝てない」
「何を、ビビってるんだ! お前は俺の弟みたいなもんだ。弱音を吐くな。俺と行けば絶対勝てる!」
ツヨシは俺の事情などお構いなしだ。
だが、俺が城に戻る本当の理由を話せば、この男と戦うことになる。
俺の態度にツヨシが苛立っている。
「俺は、魔王の首をこの手で狩りたいんだ!」
俺が姫のために生きたいのと同じように、この男は戦いのために生きたいのだ。
◇◇
「空から世界を見下ろすと、みんな自分のために好きなことやって生きてるのがよくわかるよ」
◇◇
魔法文鳥バードが言った言葉を思い出した。
「ツヨシ……」
その時、一体のトロルがツヨシの背後に立っていた。
ツヨシが倒した二体の3倍の大きさだ。
「何だよ?」
「後ろ……」
「うわっ!」
間一髪、ツヨシはトロルの拳を避けた。
一つ目の巨人トロルが、耳元まで裂けた口を開く。
「貴様の仲間は、魔王様の家来になったのだ! お前は裏切られたんだよ!」
俺を指差しながらそう言った。
低能なトロルが全てをしゃべってしまった。
「なんだと!?」
ツヨシの目が輝いた。
目の前に敵を見つけたことが嬉しいようだ。
結局、お前は血を見たいだけなんだな。
俺はそう思った。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます