第9話 裏切ったら、愛する人を殺します

 俺は、自分の親でもあり恩人でもある王がいる城に向かって旅をしていた。

 オークルの城から出発して、二日が経った。

 今のペースなら二週間後には到着できる。

 王のいる城からオークルの城へ行く時は、モンスターが次々と現れ、俺の行く手を阻んだが、今はモンスターは現れない。

 オークルが下僕であるモンスターたちに活動停止を命じていたからである。

 俺が無事に城にたどり着くために。

 途中、オークルの命令を無視して血の気の強い巨人トロルが襲ってきたが、レベル40の俺にとっては簡単に倒すことができた。

 一瞬、モンスターを倒してレベルを上げて、オークルをもう一度倒しに行こうかと考えたが、やめた。


「裏切ったら、姫を殺す」


 そのようにオークルに言われたからだ。

 そして、レベルを上げる時間も無かった。

 一カ月以内に王を殺して戻って来るようにオークルから強く命令されていたからだ。


 それにしても、オークルの側にいたシュキイ姫の悲しげな顔が心配だった。


◇◇

 出発の日にさかのぼる。


「姫、お訊きしますが、本当に父上を倒してもよいのですか?」

「父上とは縁を切ります」


 言葉とは裏腹にシュキイ姫の顔は泣き出しそうだった。


「本当に良いんですね?」

「しつこいわね! あなた私の家来でしょ! 言うことを聞かないと、あなたもどうなるか分からないわよ!」


 シュキイ姫は俺を怒鳴りつけた後、オークルを見た。

 オークルは満足そうにうなずいていた。


「姫、少し下がっていなさい」

「でも……」

「下がっておれ!」


 オークルに強く言われ、シュキイ姫はすごすごと自分の部屋に引き下がった。


「勇者ユキイチロウよ」

「あ?」


 俺は強がってオークルの呼びかけに、ぞんざいに答えた。


「武器や防具が使い物にならなくなったと嘘を付き、何事も無かったかのように城へ戻れ。そして、油断した王を殺すのだ。そうすれば王国は混乱し、内部から崩壊するであろう」


 そこまで聞いて俺は答えた。


「俺に暗殺をやれと言うのか?」

「そうだ。私に寝返ったとか、姫が私に惚れているとか、そういう事は言うな。もしも、お前が私を裏切ったことが分かったら……」


 オークルは、一拍置いてこう言った。


「姫を殺すぞ」

◇◇


 俺は砂漠を一人、歩いていた。

 オークルの冷酷さを思い出していた。

 恐れ、憎しみ、嫉妬、そして怒りを感じていた。

 その時、背後から声がする。


「おい! ユキイチロウ! 久しぶりだな!」


つづく

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