第8話 やりたいことをやりとおせ!

「ユキイチロウはどうしたいんだ?」


 俺のペットであり友達である魔法文鳥のバードがそう問いかける。

 バードは普通の文鳥から数百万分の一の確率で生まれる『人と話すスキル』を持つ文鳥である。


「大好きな姫のために、魔王の家来になるのか? それとも自分の親でもある王様のために闘うのかい?」


 見張り役のミノタウロスはいびきをかいて眠っている。

 仕事をさぼるとは敵ながらだらしない奴だ。

 だが、こうしてヒソヒソ話ができるのはありがたい。


「僕は、まだ少し迷っている」


 さきほど、姫からの接吻を受けて、魔王の側に付くことを決心した俺だったが、ここに来て少し迷っていた。

 恩人である王のことを思いだしていたのである。


「相変わらず、優柔不断だな」


 バードは唇を尖らせながら言った。

 鳥だけに。


「鳥の俺からすれば、王が世界を支配しようが、魔王が世界を支配しようが、どちらも変わらないけどな」

「なぜ?」

「俺たち鳥は空から、人間とモンスターが争っているところを見ている。それだけだ」

「安全なところから見物出来て羨ましいな。俺も鳥になりたいよ」

「人間は不思議な生き物だな、ユキイチロウ」

「どうして?」

「人間同士で争っていると思ったら、一人の人間を大勢で助けようとしているところも良く見かける。不思議な生き物だ」

「何が言いたいんだよ? バード」

「空から世界を見下ろすと、みんな自分のために好きなことやって生きてるのがよくわかるよ」


 俺はバードの次の言葉を待つように、じっと見つめた。


「だから、ユキイチロウの好きなことをやればいいんだよ」


 バードは月を見ながら言った。


「後悔するのが、一番悲しいぜ」


 それを聞いた俺は、何かが吹っ切れた。


「バード、僕は魔王が嫌いだ」

「うん」

「だが、姫のために魔王に仕えようと思う」

「なるほど」

「生きていれば、いつかは姫も振り向いてくれると思うんだ」

「そうだな、生きていればチャンスは来るはずだ」


 その時、ミノタウロスがゴソゴソと目覚め始めた。


「じゃ、俺は、そろそろ行くぜ」


 バードは月に向かって飛び立っていった。


 朝、俺は雨の音で目を覚ました。


「おはよう」


 シュキイ姫が、朝食を届けに牢獄まで来ていた。


「姫……ありがとうございます」

「あなたは、大事な魔王様の家来なんだから、ちゃんと食べてもらわないとね」


 そう言われた俺はがっかりした。


「姫、私はあなたのために働きたいのです」

「……魔王様がお呼びよ。それを食べたらすぐ来て」


 俺は魔王の間に呼ばれた。

 オークルの横にはシュキイ姫が座っている。


「早速、お前にクエストを与えよう」


 魔王はゆっくり口を開いた。


「王を殺して来い」


つづく

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