第6話 魔王様、『友達』を助けてあげて!
愛するシュキイ姫の裏切りで、魔王の魔法でネズミにされた勇者ユキイチロウ。
ユキイチロウの愛は、シュキイ姫に届くのか!?
私はゆっくりと、ネズミになったユキイチロウに近づいて行った。
「チュウチュウ……」
ユキイチロウは「姫、やめてください」と言いたいのだろう。
だけど、ネズミになっているせいで情けない鳴き声しか出ない。
私は半年前、魔王様にさらわれた。
正しくは魔王様の手先にさらわれた。
そして、魔王様を始めて会った。
そして、恋に落ちた。
それは片思いなのかもしれないけれど。
だけど、信じている。
いつかこの恋は実るのだと。
それを邪魔するこのネズミを踏み潰す。
「チュウ……」
そんな目で見ないで、ユキイチロウ。
長年、彼とは『友達』として付き合って来た。
そして、私を助けるために、苦しい旅を潜り抜け、今こうしてここにいる。
非情になるのよ、シュキイ。
私は自分に言い聞かせる。
右足を上げる。
その真下にネズミがいる。
その時、見えた。
ユキイチロウの頬に傷があるのを。
それは、私が子供の頃--
上級スライムに襲われそうになった私を、ユキイチロウが助けてくれた。
その傷は、上級スライムから攻撃を受けた時にできたものだった。
ネズミになってもその傷は残っているんだ。
◇◇◇
「ユキイチロウ、私が何かあった時は、助けに来てね」
「なんのこれしき! 姫のためなら、何だってやりますよ!」
◇◇◇
「ユキイチロウ……」
いやだ。
涙が出そうだ。
「どうした? 姫殿。この男をひと思いに踏みつぶしてしまえ。おぬしに命を奪われるならば、この男も本望であろう」
魔王様の顔が笑っている。
魔王様はクールだ。
そのクールさに惹かれたのは私だ。
だけど、ちょっと非情過ぎる。
私を死刑執行人にしようとしている。
「魔王様」
「なんだ?」
私は初めて魔王様に口答えしようと決めた。
「この者は、殺さず生け捕りにした方がよいかと思います」
「なぜだ?」
魔王は驚いた顔をして言った。
「この者は、剣の達人です。魔王様の下僕にすれば、いずれ役に立つかと思います」
「ふむ……」
賢い魔王は、きっとユキイチロウを下僕にした場合のメリットとデメリットを考えているはず。
(こいつを味方に付ければ王国の情報も聞けるし、スパイにもできる)
(こいつに姫の言うことを聞かせれば、私に楯突くことはないだろう)
(危険なのは、姫の心変わりだけか……人の心はうつろうからな)
そんなとこかしら?
結局、私の思いは魔王様に利用されている。
「よし、この勇者を我が軍に加えよう」
それを聞いた私はホッとした。
「人間に戻れ!」
魔王様は杖の先の宝石から閃光を放った。
ネズミになったユキイチロウに向かって。
ユキイチロウは煙に包まれた。
人間に戻ったユキイチロウが私をじっと見つめている。
その潤んだ瞳に私が映り込んでいる。
つづく
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