第5話 ネズミになった俺を、踏みつけようとする君

「何てことしてくれるのよ!」


 シュキイ姫は泣きじゃくりながら、俺の胸を拳骨で叩きまくった。

 泣き顔のシュキイ姫も可愛いもんだぜ。

 ……なんて、呑気な事思ってる場合じゃない。


「姫を助けるために、魔王を消したんです」


 俺は姫のためにやったことなのに、なぜか言い訳をしているような気分になった。


「早く魔王様を元に戻してよ!」


 俺は、こんなことを言われるために、ここに来たんじゃない。


「姫、あなたは魔王に騙されているんだ! あいつは世界を滅ぼそうとしているんだ! 魔王はあなたを人質にして、王様からこの世界の平和を奪おうとしているんだ!」

「あの人は、そんな人じゃない!」


 シュキイ姫は頑なに、魔王のことをかばう。


「あんな悪いやつのどこがいいんですか?」


 俺は疑問に思っていたことを訊いた。


「いろいろと優しいところ。あと、顔がカッコいいところ。ワルだけど筋がとおってるところ」


 シュキイ姫は顔を赤らめながら言った。

 世間知らずな姫は、本当に魔王を愛してしまっているようだ。

 ワルでカッコ良くてだとぉ!

 真面目で普通顔の俺は、恋愛対象じゃないってか!

 くそ!


「俺立場はどうなるんですか!?」


 俺は嫉妬の余り、シュキイ姫に対して声を荒げていた。


「あなたとは、お友達よ」


ガーーーーン!!!


 俺はショックで気を失いそうになった。

 そして、シュキイ姫からダメ押しの一言が発せられた。


「でも、今は、私の敵よ」


 俺、死亡。


 その時、雷鳴とともに、オークルが再び姿を現した。


「魔王様!」


 姫が喜びの声を上げて、魔王のところに向かって行った。


「な……なぜだ!? 『自己破産セルフ・デストラクション』が効かないなんて!」

「ふう、さすがにこの魔法を弾き返すのには、時間が掛かった……」


 オークルは俺が生死を賭けて放った魔法を、弾き返した。

 そんなことってあるか!?


「お前の魔法はまだ未熟だ。魔法にもそれぞれレベルがあるのだ。一定のレベルに達していない魔法は効いたように見えても、実際は弾き返されることだってあるのだ」


 レベルが上がれば、覚える魔法の種類は増えるが、魔法の精度を上げるには実践で魔法を使い続け魔法レベルを上げる必要があった。

 どちらかと言うと俺は剣技が得意なので、魔法を覚えてもあまり実戦では使わなかった。

 そのため魔法レベルは低く、こうやって魔法を使っても、あまり相手に効かない場合があるというのか。

 どうしていいか分からなくなった状態の俺に魔王は手をかざした。


鼠化マウス!」


ボン!


 俺は煙に包まれた。

 前が見えない。

 煙が晴れた時、オークルと姫がデカく見えた。

 どうやら俺は死ななかったらしい。

 だが、なんか変だ。

 二人揃って50メートルくらいのデカさがある。

 二人がデカくなったのか、俺が小さくなったのか?

 俺、どうなった?


「さあ、姫、邪魔者を踏んづけてしまいなさい」


 巨大な姫はうなずいた。

 ズンズン音を立てながら俺に向かって来た。


つづく

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