第4話 私の好きな人に何するのよ!

 俺は、何とか意識を取り戻した。


「しゃあっ!」


 再びオークルに切りかかる。

 しかし、オークルもラスボスだけのことはある。

 俺の全力攻撃をひらりと身をかわす。

 素早さには自信のある俺だが、オークルにとっては遅いってことだろう。

 やはり、レベル上げをちゃんとしてから戦いに臨むべきだった。


「くっ……」


 俺は、また後悔した。


「ほら、どうした?」


 攻撃をよけられるたびに、オークルの黒装束の裾が俺の鼻をかすめる。

 まるでバカにされいるようだ。

 腹が立つ。

 もっと腹が立つのは、オークルが一向に攻撃する気配が無いことだ。


「なぜ、攻撃してこない!?」


 業を煮やした俺は魔王に問い掛けた。

 オークルは姫の方を向いてこう言う。


「おまえに攻撃を加えると、姫殿が悲しむからな」

「何い!?」


 シュキイ姫がじっと戦いを見守っていた。

 しかも、オークルの方を中心に見ているようだ。


(何としても勝たなければ……姫の過ちを正さねばならん)


 俺はそう思った。

 だが、正攻法では自分より素早いオークルに全て攻撃をかわされてしまう。


(どうすべきか……)


 レベル35の時に覚えた、『自分の死を賭けて敵を倒す魔法を』使うことが頭に浮かんだ。


(確かにあの呪文を使えば、魔王に大ダメージを与えることが出来るが、あれは1/2の確率で自分が死ぬ……)


 俺は迷った。

 だが、このオークルを今のレベルで倒すには、一か八かに掛けるしかない。


「何をしておる? 諦めさせるために少し痛い目を見せるかな」


 オークルはゆっくりと俺の前に向かった。

 その瞬間、


自己破産セルフ・デストラクション!」


 俺はその自滅魔法を使った。

 自分の命が燃え尽きるか、オークルの命が消え去るか、どちらかに賭けたんだ。

 光のエネルギーが俺の手の平から発せられた。

 オークルと俺の間に閃光が走った。

 その瞬間、オークルの体が消滅した。

 俺は、どうなる?

 

 --目を覚ました時、自分が生きていることを確信した。

 魔法は成功し、俺は生き残ったのだ。

 賭けに勝利したんだ!


「やった!」


 俺は喝采を上げた。


「オークル様!」


 シュキイ姫は泣きじゃくった。

 消えた魔王を探し回って、右往左往している。

 そして、俺の前に向き直ると、


「何てことしてくれたの!」


 バシイ!!


 俺はシュキイ姫の手の平の柔らかさを、頬に感じた。

 どんな手強いモンスターの一撃よりも、ダメージを受けた、そんな気分だった。


「姫、目を覚ましてください! 魔王は悪い奴なんですから!」


 シュキイ姫、あなたは騙されている。

 だが、シュキイ姫は聞く耳を持たない。


「元に戻してよ!」


 シュキイ姫は鬼の形相で、俺を怒鳴り散らした。

 そう言えば、俺は子供の頃、姫の大事な人形を壊したことがある。

 その時に見た恐ろしい顔よりも、さらに恐ろしい。


つづく

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