第3話 ずっと前から好きでした

「ぐはっ!」


 俺はオークルの強い一撃を喰らい昏倒した。

 一瞬、意識を失い掛ける。

 その時、俺の頭の中に、シュキイ姫との子供の頃の思い出が走馬灯のように駆け巡った。



「シュキイ姫、待ってください。そっちは危ないですよ!」

「だって、あのウサギが逃げるんだもん」


 俺とシュキイ姫は城を抜け出して、森に遊びに来ていた。

 シュキイ姫は動物好きで、図鑑片手に森の動物たちを探し回っていた。

 そこにシュキイ姫が大好きな、白うさぎが飛び出してきたのである。

 お転婆なシュキイ姫は、そのウサギを追いかけまわしていた。

 俺はその姿を可愛らしく思いながらも、何か起きるんじゃないかとハラハラしながら見ていた。


「あっ!」


 突然、ウサギがシュキイ姫を出し抜くように、直角に曲がった。

 姫は拍子抜けしたと同時に、足がもつれ斜面を転がって行った。

 その先には崖が待っていた。

 それを見た俺は、全速力で姫を助けるために走った。


「助け……」


 シュキイ姫は助けを求めると同時に、空に身を躍らせていた。

 ガシッ!!


「ユキイチロウ!」


 俺にしっかりと腕を掴まれ、姫は崖から落ちることを免れていた。

 シュキイ姫を崖から引き上げ、二人は一息ついていた。


「ありがとう、助けてくれて」

「なんのこれしき! 姫のためなら、何だってやりますよ!」


 子供の頃から俺はシュキイ姫のためなら何だってできた。

 城の門の前に赤ん坊のころ捨てられた俺は、王様に拾われ、それ以来、同じ年のシュキイ姫の遊び相手、友達として育ってきた。

 王にも恩があるが、何より、シュキイ姫のことを愛していたんだ。


「ユキイチロウ、私が何かあった時は、助けに来てね」

「はい……」


 いずれは王妃となるシュキイ姫は、常に敵国やモンスターから命を狙われていた。

 俺は笑顔のシュキイ姫を見てこう思ったんだ。


 姫は俺のこと頼りにしてるんだ! ……ってね。


 あれ?

 ちょっと、自惚れすぎかな。


「あっ!?」


 スライムがいる。

 シュキイ姫の背後に。


「姫、どいてください!」


 腰の剣を素早く抜き取り、スライムに応戦する。

 だが、このスライムは上級のスライムで牙を持っていた。

 当時レベル3の俺にとっては手ごわい相手だった。


「くっ……!」


 プルプルの身体を弾ませ飛びついて来た。

 俺の右頬に牙が食い込む。

 痛い。

 だが、耐えろ。

 姫を救うんだ。

 俺は恐怖を抑え込み、力を振り絞った。


「どらああ!」


 俺は上級スライムの脳天に剣を突き立てた。

 透き通った体に剣が通り抜けて行く。


「ぷびゅ、ぷびゅ」


 気持ち悪い音(声?)を上げ、上級スライムは煙になって消えた。

 この世界のモンスターは死ぬと消える。

 そして、数%の確率で素材マテリアルが残る。

 上級スライムはポーションの素材マテリアルになった。

 勝利した俺はめでたくレベル4に上がった。

 だが、頬に傷を受け、そこから毒が入り込んだらしい。

 体中が痺れだした。


「ユキイチロウ、私のためにこんな目に、今、治してあげるわ」


 レベル3のシュキイ姫は、治癒魔法使いだ。


毒消去ポイズンイレース


 自身のMP《精神力》を消費し、その魔法を使うことで、俺の毒を取り去ってくれた。


「姫……ありがとうございます」

「私こそ、ありがとう」


 この時、俺は改めて思ったんだ。


 彼女を一生守ろうと。



 意識を失いかけた俺は、頬の傷が疼くことで意識を取り戻した。


「姫を絶対この魔王から取り戻す」


つづく

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