第2話 私が魔王を守りたいっ! by姫

「姫、どいてください」


 俺はオークルの前に立つシュキイ姫に、優しい声で言っやった。


「いやです」


 え……?

 意味わかんないんですけど。

 いや、姫は魔王に洗脳されてるんだ。

 俺はそう思うようにした。

 ならば、オークルを倒し目覚めさせてやろう。

 だが……

 オークルに一撃を食らわせようとすると、正面に立つシュキイ姫にもダメージがいくかもしれん。

 シュキイ姫を傷をつけるわけにはいかない。

 だが、魔王を倒さなければ、この世界は闇に包まれてしまう。

 それに、シュキイ姫が俺の元に戻ってこない。


「勇者よ……何を迷っている。この私を倒してみよ」


 俺を嘲笑うかのように、オークルは言った。


「ならば、こちらから行くぞ!」


 オークルは杖を持つ右手を頭上高く掲げた。


超自然稲妻サンダー!」


 杖の先についている宝石から三日月の形をした雷が飛び出してきた。

 この魔法を避けることができる魔法はレベル45で習得できる。

 だが、俺はレベルが40だったので身をかわして避けるしかない。


(避けることが出来ない!)


 俺の素早さは、このレベルにしてやや劣ることを思い出した。

 俺はレベル上げを怠ったことを後悔した。

 それもこれも大好きな姫に早く逢いたいために、レベル上げを怠けたせいだ。


シュンッ!


 そのとき雷が、俺の顔スレスレのところで掻き消えたんだ。

 あっけにとられた俺に、魔王はこう言った。


「次は、当てるぞ」


 わざと、当てないようにしたらしい。

 なめてやがるぜ。


「魔王様、この私に免じて、この者を許してやってください」

「えっ!?」


 俺はシュキイ姫の提案に驚いた。


「ほう、可愛い姫のためならそうしたいが、この勇者殿は、まだ闘いたそうな眼をしている」

「ユキイチロウ、私の言うことを聞いて、城に帰りなさい」

「なぜです!? あなたは魔王に騙されているのだ! 父上殿がお待ちです。私と一緒に帰りましょう」


 それでもシュキイ姫は首を縦に振らなかった。


「ふふふ……では、私と闘ってみるか? 姫、後ろに下がっていなさい」


 オークルはシュキイ姫の肩に手を置いて、後ろに下がるよう促した。


(僕の姫に、気安く触るんじゃない!)


 俺なんて、まだ一度もシュキイ姫の手に触れたことのないんだぞ!


「来い」


 オークルは直立不動だ。

 俺の剣を受けて立つつもりか。

 いいだろう。

 俺は国一番の剣の使い手だ。

 腰に掛けた鞘から剣を抜き取る。

 レベル30のとき、死に別れた鍛冶屋の仲間から引き継いだオリハルコンの剣だ。

 その鍛冶屋が命を懸けて作り上げた剣。


「どらあああ!」


 俺は、飛び上がると魔王に切りかかった。

 魔王といえど、ここで真っ二つになるはずだった。


 案の定、魔王は真っ二つになった。

 だた、俺の背後から聞いたことのある声が聞こえる。

 それは高らかな笑い声に変わった。


「ハハハ! 倒したと思ったか! 残念だな。それは私の残像だ!」


 明らかにオークルの声だった。


つづく

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