姫が魔王を好きすぎて困ってます!

うんこ

第1話 本当に好きな人は何時も振り向いてくれない

 俺は、困っていた。


 やっとのことで辿り着いた魔王の城。

 そして、魔王オークルと今、向かい合っている。

 初めて見るオークルはハッキリ言ってイケメンでカッコいい。

 確か、ダークエルフと人間のハーフと聞いたことがある。

 その証拠に、真っ黒な長髪から尖った耳が飛び出している。

 魔王というよりも、勇者という感じだ。

 って、勇者の俺が敵にそんなことを……。

 しかし、俺よりも勇者然としていて腹が立つ!

 そのオークルの後ろでシュキイ姫が震えている。


「姫、助けに来ました!」


 ん?

 今、顔を背けた?

 なんで?

 俺なんか悪いこと言った?


「まさか、こんなにも早く私の前に現れるとはな……」


 初めて聞くオークルの声は低かった。

 鼻筋の通った細面の顔から発せられる低音ボイスは、聴くものを魅了しそうだ。

 ……って、敵をカッコいいって思う自分に腹が立つ。


「おまえの家来が弱すぎるんだよ!」


 俺は強い口調で言っやった。


 実際は、魔王の部下はレベル40の俺にとって強い相手だったけどね。

 魔王の間の扉の前にいたドラゴンフライの火炎攻撃には手を焼いたぜ。

 火炎だけに、ではない。

 今、上手いこと言ったね、俺。

 なんちて。

 飛び回りながら魔法を使うから、戦い辛かった。

 だが、運よく会心の一撃を三連発できたことで、勝つことはできた。

 勝つことはできたけど、せめてレベル45で魔王の城に行くべきだと後悔した。

 ラスボス一歩手前の中ボスに、運頼みで勝利したからね。

 シュキイ姫に早く逢いたいからって、急ぎ過ぎた。


 そう、俺はシュキイ姫のことが好きなんだ。


 半年前、王国の勇者である俺は王様から、姫を魔王から助けるようにと命令を受けた。

 王様も俺と姫が仲良しということを知っていたから命令したのさ。

 俺は、命を惜しむことなく、この命令を受けた。

 それから、魔王の城にたどり着くまでの、苦難の半年が始まったんだ。


 もともと勇者として鍛えられていた俺は、レベル10から旅を始めることができた。

 王の城周辺に居るモンスターは容易いものだった。

 スライム、こうもり、サソリ、スーパースライムなどの、雑魚キャラを倒しながらレベルとエン(通貨)を手に入れて行った。

 そのエンで武器や防具を買いそろえ、俺は着実に強くなっていった。

 王国が貧乏だったため王様からの仕送りが少なかった。

 だから、自分でモンスターを倒して装備を充実させていったんだ。

 そして--

 苦労をしたが何とか今のレベルまで到達し、今、魔王オークルの前にいる。


「命が惜しければ、姫をよこせ!」


 さぁ、早く俺が本気を出す前にな。


「ふふふ……」


 ちくしょう。

 低く押し殺した様な笑い声も渋い。


「何がおかしい!?」


 この俺を、からかうんじゃねぇぞ。

 その時、姫がオークルと俺の間に割って入った。


「私は帰りません」


 俺は耳を疑った。

 だが、これは現実だ。

 今、俺を見据えている彼女はしっかりとこの世界に立っている。


「え?」


 俺は訊き返した。


「魔王を愛しているからです」


 シュキイ姫は、今度は穏やかな口調で言ったんだ。


つづく

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