仕事その3 聖夜の主役たち(1)

「思ったより、スムーズに進んでいますね」


 前を見たまま安全運転でハンドルを切る都那戒が、感情の籠もらない声で言った。

 時間は大分経ってすっかり夜だけどな。始めた時間が遅かったから、それは当然と言えば当然か。

 いい加減俺は疲れた。てか、寝てぇ……


「次は大人数になりますが、大丈夫ですか?」

「ダメだっつっても、しなきゃなんねぇんだろ?」

「当然です」


 だったらハナから聞くな畜生。涼しい顔で断言しやがって。

 シートに深く身を沈めて舌打ちをする。

 俺をチラリと横目で見、都那戒は何も言わずに左に曲がる。

 向かう先は街中央部にある広場だろう。どーでも良いけど。

 着くまでそんな時間はかかんねぇだろうけど、軽く目を閉じる。少しだけ寝る。もう無理。限界。

 隣で都那戒が溜め息をついた気がするけど、それさえ無視。

 どうせ、寝ても寝なくても仕事内容は変わんねぇんだ。だったら少しでも体力温存した方が得策だろ。

 小さな車の振動が、程よく眠りを誘う。

 あと何件仕事すんだろ………

 ま、いっか。



 街中央部の広場には、人が溢れかえっていた。ホント、どっから来んだ? ってくらいの人の山。

 どでかいツリーが飾ってあるから、余計に人が集まってくんのか? 老若男女問わず色んなヤツがいるけど、やっぱカップルが多いな。

 あー………溜め息が………


「コレはまた、凄い人ですね」


 関心したように言うなよクソが。コイツら相手に仕事する俺の身にもなってみやがれ。

 舌打ちを堪えて袋を構える。

 タイミングは、都那戒からの合図。

 てか、こんな大人数を『対象者』にするなんて、上はよほど俺たちを過労死させたいらしい。袋使うのにどれだけ気力使うと思ってやがる。


「そろそろですよ」

「チッ」


 思わず舌打ちしちまったじゃねぇか。

 息を吸い、瞼を閉じて神経を袋に集中させる。





スリー





 どこにいても、どんな場面でも、冷静さを欠かない都那戒の声。





ツー





 冷たい風が、頬を撫でた。





ワン





 目を開ける。





「0」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る