仕事その2 花売りの少年(1)

 車は、街を滞りなく進む。雪は積もる事なく弱いまま風に舞っていた。

 つか、寒い。

 スーツの上にコートじゃ寒さ凌ぎにならねぇってことか。マフラーくらい持ってくりゃ良かった。


「次はどこに行きますか?」


 都那戒は前を向いたまま聞く。そんなん俺の知ったこっちゃないんスけどね。

『配布対象者』の気配を察知出来るのは、都那戒だけだ。この車を運転出来るのも。

 だったら別に、都那戒がプレゼントを配っていけばいいと思うんだけど、『彼ら』単体では袋を扱えないらしい。だから『俺ら』とセットなんだとか。どうでもいい情報を以前上司から聞いた。


「好きにしろよ」

「では、お言葉に甘えて」


 都那戒は、ハンドルを右に切る。向かうは人気もまばらなビル街。

 ああ、また『彼』か。

 向かう先が分かってしまえば、俺が何を『配る』のかも分かってしまい。

 助手席に深く沈む。






『彼』と出会うのは、これで何度目だろうか。なんて、くだらねぇことがふと頭をよぎった。




*****




 帰り道を急ぐ人たちを横目に進み、とあるビルの前で都那戒は車を止めた。

 ここが、俺たちの『目的地』であり彼の『職場』だ。

 袋を手に車を出れば、途端に身を切るような寒さに身をすくめる。マジでサムイ。


「大丈夫ですか?」


 都那戒が珍しく、気を使ったのか心配そうな声をかけた。めったにねぇから、逆にキモい。言わねぇけど。


「……平気だ」


 強がりを言って、歩き出す。急がねぇと。『彼』が待っているから。

 気分が落ちるのは、きっと気のせいじゃなくて。

 だけど、コレが『仕事』なんだと自分を無理やり納得させる。





「こんな仕事、クソくらえだ」





 苛立ちまぎれに呟いた言葉は、自分にもロクに聞こえねぇまま風に消えた。

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