仕事その1 寂しがり屋のオンナ(1)

 車(社では『ソリ』と呼べって言われてるけど、明らかにヤーさんの乗っている車。黒いし)は静かに街を走った。

 にしてもカップル多いな。イブだからなのは分かるが、明日はお偉いさんの誕生日だろ? だから『めでたい』日なんだろ?

 ……ただの『イベント好き』には関係ないか。だったら人の仕事を増やすなと言いたい。

『イエス』だか『神様』だか知んないけど。

 憂鬱過ぎて溜め息も出やしねえ。


「マスター」


 隣で大人しくハンドルを握っていた都那戒がポツリと俺を呼ぶ。無視。

 外はついに雪が降りだしやがったし。嫌がらせかそうなのか。


「マスター」


 それにしても、『プレゼント配布対象者』リストくらい作れと俺は言いたい。いちいちこうして街を徘徊しないと分からないってのはどういう了見だ? 上は一体何考えてんだか。知りたかねぇけど。




「人の話を聞け馬鹿マスター」




 ミシ




 ~~~~~~っ!



「ってぇな! テメェの主に手ぇ出すアホがどこにいる!」

「ここにいますがそれが何か?」


 子憎たらしいくらい涼しい顔で答えてんじゃねぇよ!


「それよりマスター」


 脇腹にめり込ませてくれた左手をハンドルに戻し、何事も無かったかのように話進めやがった。コイツ……

 たまに、ごくごくたま~にだが殺意が芽生えんのは当然だよな。うん、俺間違ってない。

 都那戒は、前を見たまま変わらぬ口調で続ける。





「仕事とは直接関係ないようですが、自殺志願者の気配を察知しました」



*****



 俺の仕事は、『プレゼントを配る』こと。

 配布対象者は会社が決め、俺はただそれに従うだけだ。しがないサラリーマンですコンニチハ。

 対象者に配るプレゼントは何でもありだ。

 物でも、金でも、時間でも。

 望みが強ければ強い程選ばれる確率は高くなるらしいが、実際はどうだか知らない。てか、上が決める事だから俺には関係ねぇし。


 料金は、『希望』


 プレゼントを貰った事によって得た『希望』を、俺たちが少し買い取る。

 だから、自殺など『希望を損なう』行為が自分の配布地域内で起こった場合、そこの担当者の責任になる。この場合、俺。


「『ダリーなぁ』とか思わないで下さいね」

「だから、人の心を読むな」


 行きますよ。行ってやりますよ畜生が。流石の俺も、監査は避けたい。めんどくさいし。



「行くぞ、都那戒」

「Yes,Master」



『聖夜』には、厄介事が山積みだ。

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