【2-6b】託された魂

「その小僧は任せた」


 エヴァンは迅にそう言うと、シャウトに向かって行った。


「バルムンク!!」


 迅は剣をナーディアのバルムンクに変え、重量のある剣を振り下ろす。アーサーは軽々と受け止め、弾き返した。


 弾かれ、自身の剣の重量に体を持っていかれた迅にアーサーが迫るが、ひかるが前に出て剣戟をガードする。


 アーサーの後ろから鉄幹が上から振り下ろすが、アーサーは回転切りでひかると鉄幹の攻撃を斬り払う。


 ひかるに代わり、イリーナが横薙ぎに、背後から鉄幹の二撃目が来る直前に、


「エクスカリバー・ジェミニ!!」


「な!?」


 長剣だったエクスカリバーは短い丈ながら双剣に変化した。二本の剣で前後双方から来る攻撃を防いだ。


 そして地球人とは思えない脚力でイリーナにスキがない連撃を叩き込んで、露出した腹部に蹴りを入れ、イリーナは唾液を吐く。


「かはっ!」


 今度は背後の鉄幹に連撃を喰らわす。鉄幹は刀剣と鞘でその連撃を受け止め、刀剣があっという間に真紅に焼き染まる。


 アーサーの攻撃に納刀させるスキはなかったが、迅がバルムンクを地面に振り下ろしたその衝撃波が迫り、アーサーは回避を余儀なくされた。


「使い慣れない剣に負けるか! エクスカリバー・タウラス!!」


 双剣だったエクスカリバーは今度はアーサーの身の丈以上の大剣に変わり、軽々と地面に突き刺すと地面の大理石が裂け、周囲に爆発が起こった。


 その衝撃で迅たちは吹き飛ばされた。


「ぐあぁぁっ!!」


「キャアァッ!!」


 しかし、アーサーを無傷ではいかなかった。腕、胴、脚に数回分の傷がつけられた。


 遠くを見ると、オルフェが剣を横にして魔法を発動させていた。アーサーが発動した衝撃と同時に鎌鼬で切りつけていたらしい。


「ぐっ……! エクスカリバー・アクエリアス……!」


 エクスカリバーは片刃の直刀に変わり、全身が青白い光に包まれると、傷が修復した。


 その戦いを背後にシャウトゥに剣を向けるエヴァンはネイティブの子供と手を繋ぎながら剣を振るうシャウトゥに翻弄されていた。


 エヴァンが斬りかかれば子供と踊るように舞いながらエヴァンの剣を受け止め、上から斬り下ろそうとすれば、子供を持ち上げ「たかいたかーい!」と子供を盾にする。


「おじさん、あなたを殺そうとしてますよー。怖いですねー」


「キサマ……」


 エヴァンは怒りで額に筋が浮かぶ。シャウトゥが笑顔でやすやすとやってのける愚業に。


 しかし、その瞬間シャウトゥの右脚を鉄の棘が後ろから貫いた。


「あら」


「いじめは許さない……!」


 真摯な眼差しで剣を握るクロエが魔法を発動させていた。


 シャウトゥは苦しみの表情一つせず、棘から脚を抜く。その勢いでエヴァンを蹴りあげようとするが、エヴァンは跳躍しシャウトゥの背後に抜けた。


 するとシャウトゥの左手首から血潮が吹き出し、子供を掴む手が緩んだ。そのスキを見逃さず、エヴァンは子供に向かって飛び上がり、かっさらった。


 シャウトゥはまた平静とした表情で、斬られた手首を見る。


「あらら、酷いことされましたね」


 子供はエヴァンの手に渡った。しかし、クロエはシャウトゥがそれでも笑みを浮かべていることが気になり、首を傾げた。


 子供を優しく横に寝かせるエヴァン。それを見て、クロエはとっさに叫ぶ。


「エヴァン! 離れて!!」


「!!」




 ドスッ




 刹那、時間の流れが鈍くなっているようだった。それはゆっくり、しかし確実に起こっていた。


 遠くからアーサーと対していた迅たちは、その光景を目の当たりにしてしまった。


 子供の右手が剣の切っ先のように変形し、エヴァンの胸を貫いた。切っ先はどす黒い血に濡れ、腕に血が滴って地面に落ちる。


「あっ……、あっ……!」


 クロエは青ざめた顔で、過呼吸を起こしたかのように言葉にならない声が口から溢れた。


 クロエはカラドボルグを落とし、エヴァンに駆け寄った。


 子供、のようなものはケラケラと笑いだし、どこからか寄生木に包まれると、それはエヴァンを貫く一本の剣と化した。やがて剣全体が寄生木に覆われ、シャウトゥの元へ戻っていった。シャウトゥは静かに目を閉じて語り聞かせるように、


「こうして憐れな魔王は子供に胸を貫かれ、その命を落としたのでした。めでたしめでたし」


「エヴァンさん……」


「嘘……、でしょ……」


「エヴァン!!!!」


 迅たちは唖然とし、クロエはエヴァンにすがりついて涙を流した。


「ぐっ……! があっ……!」


 しかし、エヴァンは血反吐を吐きながら力を振り絞り、命を繋げていた。そしてすかさず、握っていたレヴァテインを投げ、それは迅の側に突き刺さった。


「エヴァン……、さん……?」


「ジンっ……!! 喰らえ……!! それをっ……!!」


 迅はふるふると首を横に振る。


「これは……、ローリさんの……」


「たたっ……えっ!! 俺がっ……、できな……とをっ!! っまえが……!」


 エヴァンは声を振り絞って迅に訴えかける。そして、血を一つ吐き出して、そして、静かに目を閉じて、そして、


「あっ、あああぁぁぁ……!!」


 クロエは顔を両手で覆って嗚咽を溢す。


 しかし、そんなクロエにシャウトゥは容赦なく剣を振り下ろし、


 しかし、アーサーの剣戟が止むことはなく、


「照木くん!!!!」


「っ!!!! アロンダイト!!」


 ひかるの一声で意識を掴んだ迅がそう叫ぶと同時に、シャウトゥとアーサーの目前に氷壁が現れ、二人の剣を一度弾き、二撃目で破壊される。


 そのスキにイリーナがクロエをさらい、鉄幹がエヴァンを担いで、二人を離れた場所にやった。


 迅は剣をストームブリンガーに変えると、レヴァテインに刃を当て、レヴァテインは紫の光となってストームブリンガーに吸い込まれていった。


 一方シャウトゥはクロエにやられた右脚を引きずりながら、セフィロトの側へ歩み寄る。


「アーサー。今こそあの力を使いなさい。これ以上私が出る幕もないでしょう。あなたが、勇者となるのです」


 そうアーサーに呼びかけると、アーサーは剣を掲げた。


「お涙頂戴ってやつか? はっきり言うけど、俺には通じないよ、それ。そんなことより、俺から何もかも奪ったお前たちを倒す!!!!」


 耳につんざく不協和音。そして神々しいオーラに包まれ、アーサーは純白の甲冑と円環を纏い、宙に浮いた。


 アーサーはセフィロトと同じくらい上空に飛び上がり、長剣を振りかぶる。


「もう終わりだ……!! エクスカリバァァァアア!!!!」


 剣を振り落とした。そして、迅たち目掛けて振り落ちるのは、雷の瀑布。容赦なく迅たちに叩きつけられ、飛び散る余波は周りの建造物を尽く破壊していく。


「もう、誰にも奪わせない!! ここが、俺の守る世界だ!!!!」




「干将・莫耶」




「な!?」


 雷の滝の底から黄色と紫の波が二破広がり、雷を静かにかき消していく。


 消えた雷の底には、誰一人新たに倒れた者はいなかった。迅が干将・莫耶を上空に向けて回し、結界を作っていた。


「軽い……」


「そんな……、俺の必殺技が……!」


「魂が……、軽い!!!!」


 迅は両刃を薙ぎ、黄の輪と紫の円をアーサーに向けて飛ばす。


 アーサーは一撃、二撃と飛んできた攻撃を弾き飛ばす。


 迅は自分の所へ戻ってきた円と輪に飛び乗って、更に跳躍する。そしてまた、円と輪を射出してそれらに飛び移り、アーサーに迫って行く。


「来るな……。来るなァァァアア!!!!」


 悲痛な叫びを上げるアーサーはもう一度剣を振り上げて雷の滝を打ちつけようとする。しかし、


「フラガラッハ!!」


 フラガラッハに持ち替えた迅がアーサーの目前まで飛び、剣閃で振り下ろそうとした剣を弾いた。


「剣憑依も使ってないのに……、なんでだよぉ!!!!」


「ガラティーン!!」


 剣をガラティーンに変えた迅は、剣を空に掲げ、アーサーの真上に魔法陣を展開させる。


「グッ……!! アアァ!!!!」


 魔法陣から振り落ちる重力に耐えられず、やがてアーサーは安定を失って地面に降りていく。高所からの落下でアーサーは涎や鼻水を流しながら叫びを上げる。


「レヴァテイン……!!」


 そのアーサーに容赦なく、迅はアーサーのエクスカリバー目掛けて叩き斬る。


「当然だ……! 託された魂の重みが違う!! 逃げてきたお前には……、負けない!!!!」


 大理石の地面に着地すると、大理石は砕け散り、紫のオーラが激しく立ち上る。


 その剣の重みに耐えられず、エクスカリバーはひび割れ、ひび割れ、


「ぐあぁぁぁぁああああぁぁぁぁあ!!!!」


 白い光となって霧散した。

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