【2-3d】共鳴する二対

「そんな……。忘れてた……。あの時の……!?」

 2人は鳥の亡骸に寄り、膝をついた。


 迅はリディルを取り出し、巨鳥に駆け寄ろうとするが、ガヴェインが立ちふさがる。しかし、鉄幹がガヴェインに斬りかかり、迅に手出しをさせなかった。


「こいつはオレがやる! 診てやってくれ、迅!」


「ごめん、鉄幹!」


 迅は二人の横を抜けて、倒れた巨鳥に駆け寄った。それにクロエ、イリーナもついていく。


「お前らも!? しゃーねぇな! 行くぜ、センパイ!」


「えぇ、私もぉ……? ていうか、あなたがセンパイならしょうがないか……!」


 なし崩しでひかるもガヴェインの相手にすることとなった。


 一方で、迅がリディルの回復魔法で蘇生を試みる。傷こそ治るものの、眠ったように倒れた巨鳥は目を覚まさなかった。


 迅は固く目を瞑り「駄目だ……」と言う。


「そんな……。この鳥も帰るところがあったのに……」


 クロエが何とかならないかと迅に縋っても、迅は首を横に振るだけだった。


「……。元の世界になんかロクなことない……」


 ティエンが俯きながら呟く。ただ黙っているだけの双子にクロエが問う。


「ねぇ、ふたりとも家に帰りたくないの?」


「当たり前だよ……。帰ったらまた、動物たちも殺さなきゃいけないんだよ……」


「それに、アーサーたちとも離れたくない。ワタシたち、家族になれた。この鳥とも、もしかしたら家族になれた……?」


「家族……」


 クロエはその言葉を反芻する。頭に過ぎったのは、自分を「クロエ」と読んで笑いかける女の人。


「ママ……」


 クロエは胸に当てた拳をキュッと握る。


「本当はね、私も帰りたくないんだ……」


「クロエ……?」


 クロエの告白にイリーナ、迅も驚く。


「ならなんで、魔王側に肩入れするの!? もうずっとここにいればいいじゃん!」


 ティエンが大声で訴える。クロエは目を瞑って沈黙し、やがて口を開く。


「今、『家族』って言ったよね。そうだね。わたしもみんなのこと、ママのことも大好き。面白くてあったかい繋がり。きっとそれが『家族』なんだね。だから、みんなと行くの! みんなに『行ってらっしゃい』って言いたい! 『行ってきます』って言われたい!」


「クロエ……」


 迅はしゃがみこみ、クロエの肩に手をポンと置く。


「わかった。クロエの意志も、君たちの意志も俺達が守る。俺達が掲げたのは自由だから。君たちの覚悟も大切にしたいから」


 迅はティエンとユエにも言った。その言葉を受けて、2人は巨鳥が遺した言葉を噛み締めた。




飛べ……。自由に……




ティエンとユエは顔を見合わせ、頷き合う。するとそれぞれ黄と紫の霊晶剣を取り出して迅に差し出した。


「これは……」


「アタシも、もう戦いたくないから」


「勇者なんてどうでもいい。ワタシは家族と平和に暮らしたい」


「……。わかった。いただくよ」


 迅はストームブリンガーを掲げた。二人の剣は光となって迅の剣に吸収されていった。


 ドクン!!


 心臓の鼓動のようなものが大きく迅の中で動いた。すると、聞き覚えのある声が響いてくる。


『この霊晶剣とやらは意志が宿る魂の剣。お前に託された共鳴する2対。今なら面白い芸当ができるかもな。さぁ、面白いものを見せてみろ……!』


「ストームブリンガー……」


 迅は漆黒の刃を見つめ、今、鉄幹とひかるが相手をしているガヴェインに向く。


「我に従え……。干将・莫耶!!」


 取り出したのは黄と紫、2対の剣が柄で合わさったような形の武器。薙刀とも剣ともとれる異形なものだった。


「それって……、霊晶剣が合体したの……!?」


「かもしれない……。こんなことってあるのか……?」


 ここにいる誰もが驚嘆した。それどころか迅さえ困惑しているようだった。


 ガヴェインは血相を赤くして苛立つ。


「なんだよ、それ……。オレが……、オレが主役なんだよぉぉおお!!!!」


 ガヴェインは叫びを上げて、迅に斬りかかってきた。


 迅は軽々とそれを防いで薙ぎ払うと、ガヴェインは後ろに仰け反り、バランスを崩して尻もちをついた。


 そんなガヴェインの鼻先に黒い刃を突きつける迅。


「俺は、俺達は託されただけだ! 自由に飛べって!」


「クソがっ!!」


 ガヴェインは一転して立ち上がり剣を構える。ガラティーンの刃にオレンジ色の光が集まり、3メートルは超える刃生成する。


 迅は円を描くように長柄の剣を回し、描いた円が黄色の輪と紫の円を作り出した。


「オラぁぁぁぁあああ!!!!」


「ぜやぁぁああ!!!!」


 ガヴェインは巨大な刃を振り下ろし、迅は光の輪と円を飛ばす。輪と円は刃を受け止めて弾き返し、左右に散るとガヴェイン目掛けて迫る。


「嘘だ……。オレは……。ギャアァァァァアア!!!!」


 ガヴェインは悲痛な叫びを上げて、輪と円の攻撃を受けた。体は宙を舞い、ガラティーンを手放して、ドサッと地面に転がった。


 手放したガラティーンは迅の目の前に落ち、干将・莫耶を舞うように回して、ストームブリンガーに戻す。そして、ガラティーンに刃を突き立てて吸収した。


「あ……、あぁ……。オレのガラティーンが……。クソっ!!」


 丸腰となったガヴェインは脱兎の如くこの場から逃げ出し、迅は呼び止めることができなかった。


「迅! すごい! かっこよかったよ!」


 クロエが明るい笑顔で迅を褒め称える。迅もイリーナも。ひかるは遠くで迅に笑いかけた。


 迅は巨鳥の遺体とその傍の双子に歩み寄ると、双子は揃って頭を下げた。


「ワタシたち、本当にごめんなさい……!」


「いいよ、そんな。それより、彼を埋葬してあげないと……」


「つってもよ、どうすんだよ、こんなでっかい鳥……」


 鉄幹が巨大な体躯を見上げる。鯨並の巨体が眠るように横たわっていた。


「寝てる人たちにも手伝ってもらいましょ。あー、でも言うこと聞いてくれるかしら……。あとエヴァンにはいろいろ言う事あるわね……」


 イリーナが溜息をつく。しかし、横のクロエは、


「大丈夫だよ。きっとあの人なら分かってくれる」


 その顔はまるでキラキラしているようだった。













「はぁ……、はぁ……、はぁ……」


 ガヴェインは苔が生い茂る木に手をつけて息が絶え絶えとしていた。右手で木を殴る。


「つまんねぇな、クソッ!!」


 よくラノベで見る異世界転移された主人公が圧倒的な力を振るって、その格好良さに女達が次々と主人公に寄ってくる。異世界で始まるスローライフを期待していたが、唯一の剣がまんまと奪われてしまった。


「大丈夫だ……。まだチャンスが……」




「残念だけど、もう無理だね」




 誰もいない所まで逃げてきたはずの場所で、少年の声がした。よく聞き覚えのある声。そちらへ顔を向けると、そこにいたのは、


「よ、米原……。なんでここに……?」


「そんなのどうだっていいじゃないか。それより、前に霊晶剣を奪われた学院生がいたんだけど、彼はもう退学になってね。多分、君もそうなるんじゃないかな?」


「そんな……。なぁ、頼む米原! 学院長の間を取り持ってくれ! 多分剣が悪かったんだよ。もっといい剣がありゃ、今度こそ勝てるから。なぁ、米原!」


 ガヴェインはアーサーに縋る。しかし、アーサーは無感情でガヴェインを見据える。そして、腕から霊晶剣コールブランドを取り出した。


「米原……? どうしたんだよ……? 」


「分かった。退学にはしないよ。だって……」


 剣を振り上げた。




「お前は殉職するのさ。ここで」




 振り下ろした剣は庇う腕を切り落とした。ガヴェインは痛みで地面をのたうち回る。


「ギャァァァアア!!!! 俺の腕……!! 俺の腕がぁぁああ!!!!」


「……」


 無言で転げるガヴェインに歩み寄り、今度は薙払って脚を切り落とした。


「痛いよぉぉぉぉ!!!! 悪かった、米原!! 俺が悪かったよ!!!!」


「……」


 ガヴェインを見下ろすその眼は冷酷で、


「来るな……!! 来るなァァァ!!!!」


 背中から心臓のある所へ剣を突き立てた。


 ガヴェインは一つ、血反吐をこぼし、


「この……、ひとごろ……の、む……こが……」


 そう言ってガヴェイン、高峰俊児は絶命した。


 屍となった体から剣を抜き、すぐさま腕にしまう。その場を後にしようと踵を返すと、一瞬立ち止まった。




 人殺しの息子。




 アーサーは唇を噛み、足早にその場を去った。


「違うね。ただの害虫退治さ」







To be continued

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