【2-2c】奪われる者
「ハァ……! ハァ……!」
誰もいない浜にガヴェインとギネヴィアは上がってきた。
急に海に飛び込んだが、ギネヴィアがとっさに口に空気の玉を魔法で生成したおかけで呼吸には困らなかった。
しかし、ギネヴィアがガヴェインに突っかかる。
「なんで止めたの。ワタシはアイツと決着つけなきゃならなかったのに……!」
「落ち着けって……! 魔王側があんなに強いって思わなかったんだよ……! あの鳥、多分魔王側のやつだろうし……」
「へぇ……。名誉挽回するとか言っておきながら、言い訳ばっかりね」
「なんだと……?」
ガヴェインはギネヴィアの胸ぐらに手をかけるが、お互い少し冷静になったらしい。目を瞑って首をブンブンと横に振った。
「やっぱり、『奥義』を習得するしかねぇのかな……。うぅ……、にしても力が出ねぇ……。真美がいりゃあなぁ……」
「マミ……? 何言ってんの……?」
「いや、その……なんだ……。最近『ご無沙汰』っつーかさ……」
ガヴェインが股を押さえると、ギネヴィアは顔を赤くして、
「まさか……」
ガヴェインは手を合わせて懇願する。
「なぁ、頼む! 一回だけ! お前も満足させるからさ……! な!?」
ギネヴィアは呆れため息をつく。
「……。仕方ないわねぇ……。ワタシもそういえば最近してなかったし……」
ガヴェインは一度はキョトンとして、ギネヴィアが恥ずかしげに頷くと、がっつくように唇で唇を押さえつけた。
「ンン……!? ちょっと、ここで!? 待って……! ン……!」
誰もいない砂浜。二人は砂で汚れながらお互いの身体を弄り始めた。
「……。……ねはらく……」
まどろみの中、聞こえてくる女の子の声だ。
「よねはらくん……。米原くん!」
自分を呼ぶ大きい声が耳につんざく。自分は仕方なくカバンを枕にして地面に横たわる重い身体を起こした。仁王立ちで叱りつける長い黒髪の大人びた女子生徒がそこにいる。
誰もいない屋上。フェンスの隙間から吹く心地よい風が、半袖のワイシャツから伸びる腕を撫でてくる。
「……。なんだよ、委員長さん」
「なんだよじゃないでしょ? サボりぐせ、いい加減直しなさいよ。もうお昼休みだよ」
腕時計を見る。午前の授業終了時間は確かに過ぎていた。
「……。だってかったるいだろ……? あのクラスにいるの」
「言い訳は聞きません。先生が『連れ戻せ連れ戻せ』って、もう耳にタコできちゃった」
「いいんじゃないか、耳タコ。似合うと思うぞ」
「全然よくない!」
クラスの委員長が不真面目でサボり魔の自分を叱りに来る。これが自分の日常の一部だった。
委員長はその場から動こうとしない自分に対してため息をつき、
「……。高峰くんのこと、まだ怒ってるの?」
委員長の問いに自分は少し口籠ったかもしれない。すぐに「別に」と返した。
高峰。小学校、中学校、そして今いる高校と同じ学校が偶然にも重なる腐れ縁。
「……。彼、そんなに悪気はないと思うよ。言うことだいたい冗談だしさ。ハイハイって流せばいいんじゃない?」
委員長は高峰を擁護して、自分を宥めようとしている。
「……。ところで、委員長さ……」
「ていうか、さっきからなんで『委員長』?」
「……。髪、伸ばしたんだな」
委員長の姿にボブヘアだったころの幻影が重なる。しかし、現実は黒髪のロングヘアの彼女。
「は? ん、まぁ……。たまにはイメチェンもいいかなって……」
「……。ちょっとサッパリしてた方が良かったんじゃないか?」
「え? あぁ、そう……?」
そんな話をしていると、屋上の扉が開かれた。
「お、いたいた。おーい! 真美! ん? 米原もまたサボりかよ」
扉から現れたのは、爽やかな短髪の男子生徒。
「高峰くん!? どうしたの?」
『真美』と呼ばれた委員長は、高峰に駆け寄った。
「いや、もう昼だろ? ライン呼んでも既読付かねぇし」
「そうね。米原くん、お昼どうするの?」
「……。いい……。後で食べるから……」
「そう? 次の授業、出なさいね」
『真美』はそう言うと、高峰について行くように出ていってしまった。
扉が閉まると、自分はポケットからスマホを取り出した。
ラインを立ち上げると、高峰とのライン履歴がある。一度はタップを躊躇った。しかし、結局は押してしまった。
一ヶ月前まで遡り、送られてきた画像つきラインが目に入ってしまった。今自分は強張った顔つきをしてるだろう。
『彼女ゲットだぜ♪』
そのメッセージとともに添付されていたのは、ベッドの中で嬉々として画面にピースする高峰と、その横で上半身裸で眠る委員長の姿だった。
「……ーさー……。アーサー!」
アーサーと呼ぶ声が耳につんざき、ハッと目を覚ました。
起き上がると、ここは屋上の庭園。その芝生の上で転寝していたらしい。
傍に立っていたのは心配そうな顔で見つめるアナスタシアだった。
「アーサー……? 心配しましたよ……? うなされてるんですもの……」
「うなされてた……?」
頭を抱え、ふと眠る前のことを思い出す。
剣憑依の練習をしていたのだった。それは体力を消耗し、しかし術を何回試しても発動せず、体力の限界になって崩れ落ちてしまったことを思い出した。
そして『あの夢』を、過去の出来事を思い出してしまったのだった。
「……。なぁ、アナ……」
「なんですか……?」
「……。俺たちは……、ずっと一緒にいられるよな……?」
アナスタシアは一度はキョトンとしたが、すぐに微笑みを向けた。
「当然です。あなたには恩がありますし、それ以上に……。いえ……、なんでもないです……」
アナスタシアはすぐ赤面して顔を背けた。
アーサーは胸を撫でおろして、立ち上がる。
「そうだよな……。もう、奪われるだけの俺じゃないんだ……」
アナスタシアに聞こえることなく、アーサーはそう呟いた。
To be continued
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