28話 最後の瞬間まで

「想い、書けたか?」


「うん。時間はかかったけど全部書けたよ」


「よかった。いつ、渡すんだ?」


「坂上のお母さんに渡そうかなって」


「会わないのか?」


「うん。会ったら思わず零れそうな言葉があるからね」


「それって……」


「大丈夫。鶴貝さんにも会ってお礼がしたいな」


「伝えとく。無事に渡せたら三人で会おうな」


「それ、私が渡せる前提なの笑っちゃうね」


「俺は信じてるよ。薄っぺらい言葉だけどさ。お前達の友情は短いけど一番近くで見てきたからな」


「……うん」


 上手く、笑えてたかな。


 顔が歪んでなかったかな。


 目頭が熱いや……。





「あら、皐月ちゃん!」


「忙しいのに何度もすいません」


「律に用かしら?」


「いえ。今日は坂上のお母さんに」


「私?」


「坂上に渡してほしい物があるんです」


「まあ。いいけれど本人に手渡ししなくていいの?」


「はい。会ったら、また喧嘩しちゃうかもしれませんから」


「そうね。分かったわ」


「ありがとうございます」


 私は坂上のお母さんに手紙を渡した。


「アメリカでもお元気で。いつか日本に帰ってきてくださいね?」


「ええ。その時は……」


「連絡はいいです。ご縁があったらまた会えますから」


「そうね。今まで律と仲良くしてくれてありがとうね」


「こちらこそ。ありがとうございました」


 私は深く。深く頭を下げた。


 今までの感謝を伝えるため。


 これからの幸せを祈るために。




―――ギーギー。


 一人ブランコを漕ぐ。


「今頃、読んでるかな」


 急に手紙が来たこと驚いてるかな。見ずに破って捨てたりしてないかな。


 なんて、不安事ばかり。


「最後に会いたかったな……」


 空港まで見送りなんて絶対にできない。


 飛行機が空を飛んでいる瞬間しか見ることができない。


 もう、私は坂上の顔を。


 声を聞くことさえも……


「犬飼!!!」


「あはは。ついに空耳がするや……」


 どれだけ拗らせてるのって。


 誰かにツッコンでほしいな。


「空耳なんかじゃねぇよ」


「ありえない」


 私の顔を見たら吐くって言うぐらいだよ?


 自分から会いに来るわけないじゃん。


「嘘。絶対嘘」


「嘘なんかじゃねぇよ」


「嘘だってば! 私の顔みたら吐くんだよ? 会いに来るわけなんて天地が狂ってもない!」


「だから、あるんだよ!!」


 ブランコを持っていた手をガッシリ握られた。


「は。本物……?」


「最初からそう言ってんだろ」


 目が合った。


「っ」


「逸らすなよ。合わせろ」


 顎を強引に持たれ、顔を上げさせられる。


「何で来たの。私はアンタに会わないために手紙書いたんだよ!?」


 そんなこと言いたいんじゃない。


「吐くんでしょ? 早く離れてよ!」


 違う。


「アメリカ行くんでしょ? もう一生会わないよ!」


 違う。違う。


 そんなこと言いたいんじゃないよ。


「ああ、そうかよ」


 ほら、呆れた。


 最後に会えたのに私は何を言っているのよ。


 素直じゃないにもほどがある。


「犬飼、良く聞け」


 今まで聞いたことないぐらい低い声。


 これは怒ってる。

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