26話 私が私である理由


「昨日、何があったんだ?」


「ゆっくりでいいから、教えてね」


「……ありがとうございます」


 放課後。三人で集まり、話を聞いてもらうことになった。


「昨日、坂上の家に行ってどうして引っ越しのことを話してくれないのか理由を問いただしに行ったんです。そこで口論になって……」


 あの時のことを思い出すだけで辛くなる。


 脳裏に焼きついている。


「どんな口論だったの?」


「……今までの坂上への不満が爆発しちゃって。坂上のお母さんに止められなかったら絶交にまでなってたかもしれません」


「それは、相当でかい喧嘩したな……」


 まだ二十年も生きていないのに二回も絶交を味わうことになる可能性があった。


 そう考えるだけで冷や汗が出てくる。


 でも、どうせもう……。


「でももうどうでもいいですよ。坂上とは一生会うこともないと思いますし」


「は?」


「海外に引っ越すんですって」


「か、海外!?」


「やっぱり上川も聞いてなかったんだ」


「それは驚いたわね。海外のどこって?」


「アメリカです」


「アメリカか……」


「日本と比べ物にならないぐらい大きいですよね。そんな所と日本とじゃ居場所が分かる以前に一度も連絡を取らなくなりますよ」


 国境を越えて連絡するぐらいの仲が今の私達にはない。


 連絡なんてアイツからは絶対にしないだろう。


「ねえ、気になるんだけどね」


「どうしました」


「皐月ちゃんはさ、どうしてそこまで坂上くんのことを気にするの? ただの友達なんでしょ?」


「そうですね。中学の頃が関係してますから」


「中学、か」


「坂上は見ての通り中学でもモテてました。その坂上から言い寄られて付け上がってるって勘違いされて陰口されて、小学の頃からの友人にまでも絶交されました」


「嘘……」


「それでもアイツと友達になったのはアイツから私と友達になりたいって熱意が伝わったからです。性格などがいないタイプで気に入ってたんでしょうね」


 今考えればそうでしかない。


 それ以外、理由が考えられない。


「だから私は女子の友達を作ることより坂上のことを優先したんですよ。今となってはその選択も正しかったかどうか分からないですけどね」


「だから、皐月ちゃんがどんなこと言われても。どんなことされてもその真っ直ぐな性格が変わらなかったのね」


「え?」


「言いにくいけど、女の子ってその場や相手によって態度を変える人がいるでしょ? そういう意味でも真っ直ぐ、誰でも態度を変えない性格って大事なのよ」


「たしかに、そうですね」


「どうしてそんなに真っ直ぐな性格なのか不思議に思ってたのよ。誰かが支えているのか、誰かがその性格を好きって言ってくれたかぐらいしか浮かばなかったけどその通りだったのね」


「性格が好き……」


「坂上くんはきっと、皐月ちゃんの性格を含め人間性が好きだったのよ!」


「でも……」


「くよくよすんなよ! らしくねぇ」


「その核となる部分がいなくなったら元の性格に戻るわよ……」


「俺はお前の性格が好きだ!」


「!」


「私も好きよ。誰に対しても平等な態度や悪いことを悪いと言う性格、好きよ」


「お二人とも……」


「だから、お前はその性格を大事にするんだよ! いつか、奇跡が起きて坂上と再会できた時に自慢できるぐらい素敵な女になるんだ!!」


「そうよ。見返してやりなさい!」


「っ」


 目頭が熱くなる。


 どうして、ここまで言ってくれるの。


「きっと犬飼なら大丈夫だ。坂上と話せなくても手紙やら色々手段はあるさ! 諦めるな!」


「そうよ! 私達は応援された分応援し返すわ!」


「それいいですね!」


 二人の言葉が胸に刺さる。


 私は私のままでいい。


 そう言われている。


「ありがとうございます。坂上に想いを伝えてみます!」


「頑張ってね!」


「はい」


 私は鞄を持ち、前へ歩き出した。

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