25話 取り乱した私

「皐月?」


「あ……」


 あれから無意識に家に帰っていた。


 部屋に戻らず、リビングで放心していたよう。


「どうかしたの? あまり顔色良くないわよ?」


「大丈夫」


 私は鞄を持って、部屋に戻ろうとした。



―――パシ。


「待って!」


「何よ」


「何かあったんじゃないの? 母さんに話してみたら?」


「何も言うことはないよ」


 放っておいて。


 お願いだから……。


「母さんに相談できない内容なの? ねえ?」


「……」


「黙ってないでなんとか言いなさいよ!」


「うるさい!!」


「え」


「放っておいてよ。今までみたいにさ!!」


 お母さんに怒る必要はない。


 でも、今は。


 今だけは怒りが爆発してしまった。


「皐月!!」


 私はそのまま家を飛び出た。


「っ」


 何も考えたくない。


 どこにもいたくない。


 明日が来なければいい。


 そうしたら、坂上も……。


「どうしてよ。どうしてなの!!」


 私はどこで間違ったの。


 坂上と友達になった時から全て駄目だったのかな……。


 なんて、柄にもなく後悔して。


 馬鹿みたい。


 私は後ろを振りかえずに前を見て生きていたいのに。


「それができてないの、自分のせいじゃん……」


 全部自分が悪い。


 坂上の気分を害していたのも。


 いつか、こうなる未来が見えていたのかもしれない。


「悲しいよ。私、駄目人間じゃん……」


 嫌い、嫌い。



 大嫌い。



 ここまで自分を拒否したことはない。


「お願いだから消えて。汚い感情は消えてっ……」


 真っ白のままがいい。


 灰色にも、黒色にもなりたくない。


「バーカ。バーカ!!」


 自分に帰ってくる言葉。


 恋愛なんて人生の何にもならない。


 形にも残らず、記憶だけで生きていく。


「だから、男は嫌いなの」


 嫌いで、嫌いで。


 ……でも、好きになってしまう。


「私、何がしたいのかな」


 自分の道しるべがなくなった気がした。






「い、犬飼!?」


「おはよ」


「その顔、どうした!?」


「大丈夫。気にしないで」


 目が腫れて、顔色も悪いだろう。


 今までの自分とは違う。


 取り乱していることが丸分かりだ。


「坂上?」


「!」


「はよ」


 それだけ言うと席についた。


「昨日なんかあった?」


「……何もないよ」


 嘘。あった。


 でも、話したくない。


 こんな自分、もう誰にも見られたくないの。


「話せよ」


「……嫌よ」


「もう一度言う。話せよ」


「……」


「宮子さんが一緒の方がいいなら放課後呼び出すよ。今日は何も予定がない日だろうし」


「いいよ。気にしないで」


「俺が気にするんだよ!! 恩人が悩んでる。気にせずにはいられねぇ!」


「上川……」


「坂上のことだったら俺も少しは協力できるかもしれねぇ。頼むよ」


「……ありがとう」


 私は話すことを決意した。

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