24話 私の本音

「はあ」


 私にはまだ、問題が残っていた。


 坂上のこと。


「どうして、どうして言ってくれないの」


 私達は大切な“友達”だよ?


 そんな大事なこと、一番に私に言うはずでしょ……。



―――ピンポーン。


「はーい! あら、皐月ちゃん!」


「お久しぶりです。坂上のお母さん」


「どうかしたの? 律なら今いないけど……」


「中で待っていてもいいですか?」


「構わないわよ。散らかってるけど気にしないでね!」


「はい」


 中に入らせてもらうとダンボールの山がたくさんあった。


 引っ越すっていうのは本当なのだろう。


「坂上のお母さん」


「どうしたの?」


「引っ越すんですね」


「ええ、そうなの! “海外”に!」


「え」


 海外?


 国内じゃないの?


「お父さんの赴任が決まってね。アメリカなのよ! 律には申し訳ないけど着いてきてもらうことになったの」


「そう、なんですか……」


「あら。もしかしてあの子、言ってなかったの!?」


「はい。引っ越しのことも人伝いに」


「ええ!? てっきり皐月ちゃんにはもう伝えてると思ってたわ!」


「今はそのことを話しに着てます」


「なるほどねー。私上の荷物片付けてるからゆっくりしててね!」


「ありがとうございます」


 私は出してもらったお茶を飲みながら坂上を待った。



 一時間ほどした頃。



―――ガチャ。


 玄関が開いた音がした。


「ただい……!?」


「おかえり。待ってた」


「犬飼」


「話があるの。座って」


「……俺には話はない」


「私にはあるの!! いいから座って!!」


「ないって言ってんだろ!!」


「ならこのままでいい。どうして引っ越しのこと言ってくれなかったの」


「それは……」


「私達“友達”だよね? 私はあの時の言葉をずっと信じてたんだよ!? 話しかけられなくなっても無視されても。ずっとずっと……」


 泣きそうになる。


 でもここで泣いたら駄目だ。


 言うの。


 気持ちを全部ぶつけてやるの。


「アンタに恋人ができて紹介された時の私の気持ちが分かる!? 何回も何回も。もう数えなくなったよ!」


 ぶつけて。


「恋人と別れた時は地雷とかなんだとか言って何も話さない。その割には人の恋愛に口を挟むの!」


 ぶつけて。


「私の傍にいるくせに、いっつも誰かのこと考えて!」


 ぶつけるの。


「アンタは私の何なの!? ただのいい友達? それとも……」


 次の言葉が出てこなかった。


 全部ぶつけてやりたいのに。


 言葉がでない。


「“都合の良い女”」


「!」


「そう言いたいんだろ?」


「……そうよ」


 もういいや。


 引っ越して、会わなくなる。


 何を言っても、何を言われても。


 顔を合わせなくなる。


 嫌われてもいいや。


 この関係が、なくなってもいいや……。


「私はずっと、ずっと……!」


「ちょっと! 凄い怒号が聞こえるんだけど大丈夫なの!?」


「!」


 私は何を言おうとしてたの。


「ごめんなさい。うるさくして……」


「それは大丈夫だけれど。それよりも律! アンタなんで引っ越しのこと皐月ちゃんに言わなかったの?!」


「……」


「黙ってないではっきり言いなさい!」


「いなくなりたかったから」


「はい?」


「犬飼の前からいなくなりたかったんだよ!! 引っ越しのこと了承したのもそれが理由」


「何で皐月ちゃんの前から……」


「アイツの顔見ると。アイツの顔を見るたびに……!」


 “吐きそうになる”


「ぇ」


 ショックが隠せなかった。

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