20話 泣き虫

「鶴貝さん?」


「あ。皐月ちゃん……」


「どうしたんですか?」


 久しぶりに見た鶴貝さんは泣いていた。


 何かあったんだろうか。


「ちょっとね……」


「上川とのことですか?」


「……」


「話してください。上川と鶴貝さんのことは応援していますから」


 上川に非があるなら直してあげたい。


 教えてあげたいから。


「ただの嫉妬なの。浩介くんが女の子と話してるの見ちゃって……初めてだったからちょっとね……」


 女の嫉妬。


 こんなに違うんだ。


 人によって、こんなに見え方も考え方も違うんだ。


「大丈夫ですよ。上川は鶴貝さんしか見ていません」


「本当かな?」


「信じてあげることも恋愛で大切ですよ。付き合う前、ずっとアピールしていた上川を思い出してください」


「そうね。ありがとう」


「いえ」


 これぐらいの嫉妬なら大丈夫かな。


 上川も交友関係がある。


 友達を全員男に変えろなんて無茶な話だ。


 そっと、内緒にしておくことにした。





「……」


 最近一人で帰る。


 寂しくはないけれど、物足りない気がする。


 こんなことはよくあったのにね。


「う……んん」


 何。


 いつものように『ただいま』を言わずに家に入ると。


 くぐもった声が聞こえた。


「はあ」


 私はさっさと階段を上り、部屋に入った。


「夕方からやめてよ」


 どうせ、夜になればまた始めて。


 明日には『腰が痛い』って言い出すに違いない。


 少し涙目になって、私にそう話すに違いない。


「バーカ」


 お母さんのバーカ。


 あんな男の何がいいのよ……。


「やめよう」


 私はラフな格好に着替え、家を出た。


「面白くないや」


 映画館にいって、映画を見て。


 公園にいって、一人でブランコを漕いだ。


 何も面白くない。


 あの二人のことで時間を潰す時は何も面白くない。


「犬飼?」


「坂上」


「こんな時間にどうした?」


「別に。暇だったからここにいるだけ」


「律くん。この女誰?」


「高校の同級生だよ!」


「そうなんだ~」


 横には派手な女。


 ずっと同じような系統の女ばかり。


 化粧で顔を作って、派手な服で肌を見せ。


 その巧みな言葉で男を誘うのだろう。


「初めまして~律くんの彼女です!」


「どうも」


 いかにも、自慢げな顔で私に坂上を見せつけてくる。


 こうなったのは何度目だろうか。


 もう数えていない。


「もう行ったら」


「……」


「彼女さんに悪いし」


「そうだよ! 行こう?」


「分かった」


「じゃね~」


 公園から出て行く坂上から視線を逸らした。


「……っ」


 頬から涙が零れた。


 私はいつから泣き虫になったんだろう。


「鈍感っ……」


 何に対して。


 誰に対しての言葉かなんて分からなかった。


 

 今の私は何に対して泣いているかさえも……。

 

 分からなかった。

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