21話 恋愛相談

「犬飼さんだよね?」


「はい」


 最近『犬飼さんだよね?』って言われる回数が増えた。


 理由は簡単。


「恋愛相談、いいかな?」


「どうぞ」


 中学の先輩か鶴貝さんから私が恋愛相談に向いてるって噂になったんだろう。


 ほぼ九割先輩だろうけど。


「彼氏とさ、最近連絡が取れなくて……これって自然消滅なのかな?」


「いつぐらいですか?」


「一ヵ月ぐらい……」


「自然消滅ですね。次の恋愛に移った方が時間を無駄にしませんよ」


「そっか……ありがとう!!」


 皆、納得して帰っていく。


 誰かに諦めろや次に行けって言葉がほしいだけだろう。


 その相手に私がうってつけだった。


 隠さずズバっと物事を言う。


 あまりいない人種らしい。


「犬飼ちゃん! いいー?」


「またですか」


「最近恋愛運がよくなくてー! 男紹介してよ~」


「私に紹介できる男はいません」


「えー。上川くんとかさ!」


「上川は彼女います」


「え!? じゃ、坂上くんは?」


「坂上はおすすめしません。絶対辛いですよ」


「マジかー。それじゃ、やめよ!」


「そうですね。当分恋愛お休みしては?」


「え~」


「こういうのにいってみては?」


 私はある写真を見せた。


「え。かっこいい! なんて名前の俳優?」


「俳優じゃありません。声優です」


「声優ってたしかアニメの声の?」


「そうです。近年ライブとかもしてますし恋愛を休む間に楽しんでみては?」


「参考にしてみる! ありがと!」


「いえ」


 こういう手で恋愛ではなく別の物のハマッてしまった人もいる。


 でも、そういう人達は今後一切恋愛相談に来なかった。


 来るとすれば好きな物を話しに来るだけ。


 いい話ばかりだった。


「ねえねえ。犬飼ちゃん」


「はい」


「犬飼ちゃんはさ、どうして恋愛したくないの」


 今までとは違い、じっと私の目を見つめてくる。


 この人は変な所で勘がいい。


「男」


「え?」


「男が苦手というか、嫌いなんですよ。特に年上が嫌い」


「ふーん。よく喋ってくれたね。自分語りするの苦手なのに」


「まあ。先輩にはなんとなく」


 先輩ならなぜか全部受け入れてくれる気がした。


 ただの気のせいだけかもしれないけど。


「え。素直に嬉しいんだけど!」


「呆れました。そんなに嬉しいオーラだされるとちょっと……」


「ちょ、引かないでよ!!」


 こうして同性と他愛ない話をするのはいつぶりだろうか。


 あの時以来だろうな。


「犬飼ちゃーん!」


「もう。今度は何ですか?」


「合コンいかない?」


「いきません」


「即答!? 変わんないね~」


「変わりません」


 自分の信念を。


 自分の意見をあまり曲げたくない。


 それが正しいと信じてるから。


 私にはそうしないといけないから。


「そろそろ恋愛相談は疲れました。終わりにしたいです」


「えー。結構好評だよ?」


「そんな好評いりませんよ……」


「分かったー! 恋愛相談は終わったって噂流しとく~」


「ありがとうございます」


 こうして、短くはない他人の恋愛を聞く期間が終わった。

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