19話 坂上くんって
「犬飼! 昨日、お母さん大丈夫だったか?」
「うん。元気にしてたよ」
「よかった……」
「心配してくれてありがとう」
「当たり前のことだろ!」
その当たり前ができない人が多いの。
その当たり前が口にできない人が多いの。
「最近さ、坂上あんまり絡んで来ないよな……」
「新しい彼女でもできたんじゃないの。坂上はそういう奴なの」
「そっか」
中学の頃から知ってる。
人に優しくてたらし。
かと思えば冷たくなって、人を突き放す。
そういう男なの。
ずっと、ずっと嫌でも見てきたから。
嫌でも、話してたから。
―――二年前。
「俺、坂上律! よろしくな!」
「よろしく」
学年で一番人気の男。
その男と席が隣になった。
「皐月、羨ましい~」
「変わってほしい。関わりたくない」
「皆と逆思考!! 相変わらずだね~」
“相変わらず”
この言葉が嫌いだった。
「犬飼、犬飼!!」
「何」
ずっと、ずっと。
しつこく話しかけてくる。
彼女が遠くから貴方を見ている。
貴方を見る視線は甘いのに。
私を見る視線は痛い。
女の嫉妬は醜い。
その事実を今日、身をもって知った。
「犬飼! ここ教えてくれね?」
「無理」
「また拒否してるよ」
「何様だよ!!」
いつしか、陰口を叩かれるようになった。
こうなるから関わるのが嫌だった。
色男は、面倒だから。
「皐月。いや、犬飼さん最低」
「え?」
いつかの日。
親友と呼べるかは分からないけれど、小学の頃からの友人に絶交された。
「私が坂上くんが好きって知ってたくせに!! 尻軽!!」
「……」
何を言っているのか分からなかった。
尻軽?
私が今まで、男を避けて生きてきたことは貴方が一番知っているはずなのに。
「そ」
悲しい心を隠した。
「犬飼さ!! 彼氏とかいねぇの?」
私はこの言葉でついに頭が爆発した。
「アンタのせいでこうなってるの分からないの!? 鈍感なの? 最低男よ!!!」
貴方は関係ないはずなのに怒鳴ってしまった。
「あ。ごめ……」
「知ってた」
「え?」
「ずっと知ってた。俺のせいで友達と絶交したこと、陰口叩かれてること」
「なら、何で……」
「犬飼と仲良くなりたいから! お前が俺しか友達がいなくなっても自慢できるぐらいに仲良くなりたかったんだ!」
「っ」
この人が無責任なこと言ってるのは分かってる。
でも、どうしても……。
「ありがと」
涙を流さずにはいられなかった。
「犬飼」
「ん?」
「犬飼が知ってる、陰口叩いてる奴の名前教えて」
「え……」
「俺、人をいじめる、または悪口を言うような奴とは付き合えない。一生好きになることもないから」
「でも」
「俺、間違っても“友達”をいじめたような奴と付き合いたくない。な? チクって」
「……うん」
私は私が知っている限りのことを全部教えた。
「これから俺と友達になったら迷惑かけるかもしれない。それでも、犬飼と友達になりたいんだ!」
「うん。私も友達になりたい」
「ありがと!!」
「何かあったらすぐにチクってあげる。対処してね?」
「おうよ!!」
「犬飼はさ」
「ん?」
過去のことを思い出しているとふいにこちらに戻された。
「坂上が誰かと付き合ってるの見てると複雑な気持ちにならないの?」
「そうだね。もうずっとずっと見てきたからどうも、そういう気持ちはないみたい」
坂上が誰かと抱き合ってても。
坂上が誰かとキスしても。
どうも思わなくなったの。
「すげぇな。犬飼は」
「何で?」
「坂上は犬飼にとって親友的存在だろ?」
「まあ、そうね」
「俺だったらそんな存在が誰かと付き合ったりしてたらちょっと見てられないかも」
「どうして?」
「だってさ、今まで自分に時間使ってくれたのが他の奴に使うんだぞ? 悲しくなるだろ……」
「そういうものなのね」
今までそんな気持ちを抱いたことはなかった。
それが当たり前なんだ。
私達は友達関係になったのも普通と違うから。
普通とかけ離れているかもしれない。
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