18話 父という存在


「昨日さ、久しぶりに親父が出張から帰ってきたんだよ!」


「そうなんだ。よかったね」


「あんまよくねぇけどな~彼女いること知ってたらしくて散々からかわれた……」


「いいじゃん。幸せってことよ」


「犬飼からはさ、あんま家族のこと聞かないよな」


「まあ。あんまり仲良くないからね」


「そうなんだな。じゃ、この話は終わりだ!」


「気をつかわせてごめん」


「いいさ!! 宮子さんがさ……」


「あ。名前で呼んでる」


「あ!」


「あれ~報告されてないよ~」


「くっそー! 宮子さんから恥ずかしいから二人のときだけって言われてたの早速破っちゃったよ!」


「分かった。秘密にしといてあげるよ」


「ありがとよ!」


 二人で和気藹々と話をしていると。


「犬飼さん! ちょっといいですか!?」


「はい」


 なにやら焦った様子の教師が教室に来た。


「犬飼さん」


「はい」


「焦らずに聞いてね。お母様が病院に運ばれたらしいの」


「倒れたのですか?」


「いえ、交通事故らしいわ」


「そうですか」


「別の先生が病院まで送ってくれるから急いで早退の準備を!」


「分かりました」


 思っていたより焦っていなかった。


 子供の頃から母が倒れて病院に運ばれるのはよくあった。


 交通事故は初めてだけど、たぶん大丈夫だろう。


 生命力高いし。


「どうかしたのか?」


「母が病院に運ばれたから早退するね」


「それは大変だ!! 急いで早退しなと!」


 自分のことじゃないのに自分のことみたいに焦っている上川。


 今までの友達とはどこか違う。


 何が違うのだろう。




「お母さん」


「あら、皐月」


「久しぶり。皐月ちゃん」


「……どうも」


「もう、久しぶりのお父さんなのに昨日も部屋に篭っちゃって!!」


「僕に会うのが嫌なんだろうね」


「思春期だし仕方ないわよね」


「お母さん、怪我は大丈夫なの」


「大丈夫よ!! 頭打って意識なかったけどどこも異常がないから今日は様子見で入院ってだけよ」


「そう」


「皐月ちゃんは早退してきたの?」


「……はい」


「悪いね。僕と家まで一緒に帰ろうか!」


「結構です」


「もう! 相変わらず冷たい子ね」


 冷たい子でいいよ。


 貴方のその貼り付けたような笑みが嫌い。


 母にだけ向ける、笑みが嫌い。


 貴方の全てが嫌いだから。



「皐月ちゃんはさ、どうして僕のことが嫌いなの?」


 結局母の旦那と一緒に帰ることになってしまった。


 どうして、一緒の車に乗っているんだろう。


「特に理由はないです」


 嘘。


 そんな簡単に理由が話せるわけがないでしょ。


「そっか……突然お母さんが再婚して戸惑ってるのかな?」


「それは随分前になくなりました」


 再婚したの何年前だと思ってるの。


 まだ戸惑ってるような子供じゃない。


 嫌いに理由なんて必要なの?


 貴方はどんな答えを求めているの……。


「そっか。僕のことが嫌いなんだよね」


「別に嫌いではありません」


 嫌い。


「ん~どこが悪いのかな……?」


 その考えている素振りも。


「どうしたの?」


 私に向ける笑みも。


 全部、全部。


「大嫌い」

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