14話 噂

「犬飼はさ」


「何?」


 ポテトを食べながら話していると急に話題が変わった。


「彼氏作らねぇの?」


「その質問、最近坂上にもされたんだけど」


「マジ!?」


「マジ」


「今は面倒だし、作る気はないよ」


「そうか」


 凄く複雑そうな顔をしている坂上。


 そんなに気にしなくていいよ、なんて。


 今は言えなかった。


「上川は?」


「あー。俺も当分はいいや……」


 元カノの言い寄られていることを思い出したんだろう。


 苦い顔をしている。


「訳ありっぽいな。まあ、頑張れ!」


「おうよ」


「上川はさ、初デートどこにいくつもり?」


「んー。無難に遊園地とか水族館とかかなって思ってる」


「初デートにはもってこいだな!」


「まあ、二択か三択ぐらい決めといた方がいいかもね」


「分かった!」


「デート場所、決まったら教えろよ!」


「あ、私にも」


「何でだ?」


「「何でも」」


 坂上と考えてることは同じようだ。


 初デートの尾行。


 おどおどしている二人を笑ってあげようではないか。


「そういえばさ」


「どうした?」


「俺さ、ナンパした鶴貝先輩と同級生の人から妙な噂を聞いたんだけどさ」


「またナンパしたんだ」


「げ、そこに突っ込まないでくれた……」


「懲りないわね。それで今、痛い目見てるっていうのに」


「まあまあ」


「えっと。それで? 妙な噂って何だ?」


「“尻軽女”」


「は」


「尻軽って。今、そんな噂ないでしょ?」


「高校じゃなくて中学での噂らしいぞ! あんあ頭よさそうなのにこの高校にいるのもちょっとおかしいだろ?」


「たしかに。真面目そうだしもっと上にいってそうだな」


 私達が通ってる高校は高くもなく、低くもない偏差値の高校。


 いわゆる平均高。


 鶴貝さんの成績は知らないけど、もっと上にいってそうなイメージはたしかにある。


「あくまで噂だからね。一応頭に入れておけば?」


「そうするわ」


 見るからに雰囲気が変わった。


 相当惚れてるんだ。


 騙されないといいけど。


「悪い。俺帰るわ」


「りょうかーい!」


「じゃあな」


「うん」


 店を出て行った上川。


 その後姿は少し、へこんでいるように見えた。

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