第25話 最後の指示出し


鏑木の急な退職の騒動が落ち着かないまま1月3日となった


暫定的に店長職の経験のある冬木が店長に、藤原が副主任から主任に昇格する事でなんとか辻褄を合わせる形となった


そして1月3日


恭介はこの日退職する事を言うつもりだったが、そんな状況でもなくなってしまった


山本は今日は休み。役職も鏑木が辞めた混乱を治めるために奮闘していて


遅番に入る恭介が指示出しをせざるを得ない状況になった


恭介は嫌ではないが


なんなら「頼む!」と言わんばかりの役職の反応には笑ってしまったようだ


好き勝手やって


困ったら掌返す


まるでジョークだ


遅番では久しぶり、そして最後の指示出し

新年だが落ち着いた出だしだ


「まだ新年だけあって人通りはありますね、相澤さん、ご案内に出たら何人呼び込める自信ありますか?」


「え〜?何人呼び込んで欲しい?」


「最近瞬間最高100稼働いってないらしいよ」

「そこに行けってことね。指示出し冴ちゃんならガッツリお客様と話しててもいい?」


「どんぞ」


ホールのご案内には安河を置き、相澤には外を中心に自由に動いてもらう


「冴島さん、野原です。100稼働いったら冬木店長が暴走モードに入るらしいから頑張って下さい」


「全く言ってる意味は解らないですが了解しました」


ゆるいような、しっかりしているような

それでも楽しくなればそれでいい


しかし恭介は余計なしがらみがもうない

思ったようにホールを支配する事が出来た


「相澤さん、安河さん、今稼働97。」

「あと3人ね、任せて」

「ガッテン承知」


ラフなインカムが今までなかった訳ではないが、この日、柔らかくもしっかりしたチームワークの中でスタッフは働けた


夜7時前

「相澤さん、安河さん、お疲れ様。100いきました!!相澤さん、ホール戻ってきましょう」


「ありがとうございます!」

「ありがとうございます、相澤どこ入りますか?」

「休憩」


相澤を休憩に入れた時に冬木がマイクで喋りながら階段を降りてきた

「さあ、私が新店長の冬木と申します。さあお客様!お時間許されます限り…」


「……野原班長、これが暴走モードですか?」


「……多分」


「…まあいいや。安河さん、自分も休憩行くんで、その間ホールお願いしますね」

「行ってらっしゃい」


恭介が休憩室に行くと、相澤が化粧を直しながら話しかけてきた

「ねえ、なんで最近指示出しやらないの?冴ちゃんがいいんだけど」


「…辞めるからだよ」

「…………えーーーーーーーーー!!」


「そんなに驚かんでも」

「冴ちゃん居なくなったらクズしか居なくなるじゃん」

「ははっ。ありがとう、でももう決めた事だから、ごめんね」

「そっか。じゃあその日には飲み行こうね」


相澤に話した訳で

明日には皆に回ってるんだろうな



これが、恭介最後の指示出しとなった


閉店後、作業を終えて帰ろうとした時に

「辞めるの辞めない?」

と野原や冬木に止められた恭介

昨日は藤原にも言われたか


「辞めません、辞めます」


このやりとりは恭介が去るまで続く事となる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る