第12話 幸の誕生日と最終地点

2011年7月


うだるような暑さが続く

東京港区から人が減る事はないのか?と思うほど連日店は忙しい


今月は幸の誕生日だが、見事なまでに出勤になってしまった


何買おう?


去年は温泉に行ったな

ビュッフェで全種類食べるのは義務じゃないんだぜって位食いまくってたな


就職決まった時には時計を買ってくれた

お金ないお金ないっていつも言ってるのに


「もしもし」

「はいはい〜」


「誕生日の日、どうしても空けれないんだけど、別日に祝うんでもいいかね?」


「もちろん、というか私も試験だよ、寝れないよ」


忘れるとこだった、幸は大学4年だ


「まだ単位必要なんだっけ?」

「教職取ってるからね〜面倒くさいんよね〜」


「そうか、じゃあ試験終わったらにしようか」

「おけーい」

「じゃあ、今日は寝るで」

「私は勉強する、応援しやがれ」

「へいへい、程々にの、おやすみ」



付き合い始めて3年…か。

卒業したらどうするのか聞いてないな

まあ、今度聞いてみよう


遅番で仕事をしてると、どこかで花火が上がっている音がする

「そろそろ8月か〜」


「冴島君」

「はい?」


藤原に呼ばれた、何かしただろうか?


「明日私も城崎君もいないんだけど、指示出し、やってみる気ある?」


「…はい、やります」


「解った、店長には私の方から言っておきます」


明日…照らし合わせたように幸の誕生日じゃん


恭介はとりあえず誰にも言わずにホールの仕事に戻る


そこで、楽しそうに客と話している城崎を確認する

客との会話が終わると恭介は城崎に話しかけた


「城崎さんは楽しそうに働くね」

「仕事は、楽しいじゃん。パチンコ好きだしね」

「…こないだの休みなにしてたの?」

「パチンコ」

「その前は?」

「パチンコ」


「…ははっ、そうか、そうだよね。仕事が楽しいなら、それに越した事はないね」


「冴島さんは、楽しそうではないね」


「そうだね、楽しく働くっていうのが、俺には解らないかな」

「…そうか」


恭介は城崎にも、他のスタッフにも指示出しをするようになる事を言わなかった


サプライズを狙ったとかではない


それよりも、城崎をひたすらに観察する事に没頭していた

今までもだが、今日はランプを、後回しにしても観察した


閉店後、今日は珍しく残業もなく定時の0時に上がれた


歩いて5分ほどの社宅に着くと電話をかける

「もしもし幸?起きてた?」

「うん、勉強しまくりんぐ」


「誕生日おめでとう」

「ふふっ、ありがとう」


「今日、っていうか明日は色々ありそうなんだ、でも自分が仕事でどうしたいかはやっと解ったよ、多分そんなに長くは続けないと思う」


「そうなんだ、誕生日の祝いはどこ連れてってくれるのかな〜」


「今考えてる。仕事の話は興味なかったな、悪いね」


「興味ない訳じゃないよ、でも恭介の人生だしね〜」


「…そうだな。勉強程々にしてちゃんと寝なよ」

「単位取れる気しない、寝れない、お腹空いた、でも太る」


「不安と欲望だらけだな。じゃあおめでとう、おやすみね」

「あい〜」


入社して3ヶ月とちょっと


体重は55kgまで減った


ここに来た意味があるのなら


その答えを見つけて


恭介は安堵した


無意味ではなかったんだと


その日の恭介は酒を煽り早めにベッドにはいった

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