第7話 暴君藤原

スロットコーナーでの仕事はパチンコと同じ台清掃


台からメダルが無くなったら補給するなど、身体への負担は少ない


「痛っ」

恭介が計数機でメダルを流していると腕に今使ったおしぼりを投げ付けてくる中年の男がいた。普段は女性店員に声かけてるだけの人


「…ありがとうございました」

腹が立つのはもう少し後で、された瞬間は意味が解らなかった


「ここのお客さんはまだいい方」

休憩室での木咲さんの言葉を恭介は思い出していた


「ここのでですか?」

「うーん、接客業ってどこも絶対変な奴いるけど、接客業ってだけで下に見る奴も多いからね。この辺りはお金ある人が多いからまだマシな方だと思う」


「あの、よく女性店員に絡んでくるオッサンは?」

「あれはそもそも客じゃないよ、ほとんど遊戯してないもん。本当に店員に声かけにくるだけ」

「ええ!?」

「ここの社員は出禁とかにはしないのよ、少しでもお金欲しいから。冴ちゃんはそんな社員にならないでね」


「(冴ちゃん?)」


パチンコ屋に遊びに行く時の平均予算は、ディズニーランドに行くよりもはるかに高い


その大半の人が負ける。店員へのあたりの強さは、そのイライラからも当然来ている


しかし


イライラしてるのは客だけでもない


「その報告の仕方で伝わるか考えてみろ!聞く方のこっちの身にもなれ!」


耳に直接挿したインカムから怒声が響き渡る


「(また始まった…)」


今日の役職は藤原副主任


仕事は出来るが、言葉に配慮のない暴君。

早番に入る事が多いが、彼の言葉で辞めた人の数は多い


「お客さん待たすなって何度も言ってんじゃん!もういいよ、城崎さん2人でやろう」


「…はい」


パチンココーナーの一階とスロットコーナーの二階は互いに協力しあうのが常だが、基本的にはスロットコーナーに入る人達はインカムを使わない


パチンココーナーのインカムの使用量が圧倒的に多いからだ


「(一階は戦場だな、少し離れるとその様子がよく解る)」


「冴島さん!」

「…はい!!」


藤原の声はキンキンしてて緊張感を煽る


「腰はどう?大丈夫なら一階手伝って欲しいんだけど」

「痛みはありますが、大丈夫です、降ります」

「痛みがあるなら駄目」


どうしろと…



翌日の朝礼前

「木咲さんがちょっと遅れるみたいだから」

今日も遅番の藤原はそう説明していた時に木咲さんが出勤した


「あれ?木咲さんスッピン?」

「すいません、ちょっと病院行ってたもので時間がなくて」


木咲さんは20代半ば、肌も綺麗で、気の強そうな整った顔立ちでスッピンでも特に気にはならない


業務上それは化粧しない理由にはならないが


「木咲さん、今日は絶対にカウンター入らないで!汚い顔お客さんに見せられないから」


「…はい」


「カウンターは顔だから、何より特殊景品を扱う信用が大事だから、城崎さん、回しの時はそこ気を付けて!」


「…はい」


言い方…




藤原がそれを従業員全員にうるさく説いたのが引き金だったのかは解らない


1度壊れた歯車を立て直すのには時間や労力がかかる


それは、起きてはならない事件だった


恭介が働きはじめて2ヶ月目のことである

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