第8話 花崎(はなさき)さんのせいにするな
日本ではそもそもギャンブルは法律で禁止されている
パチンコ屋というのは、特殊景品と呼ばれるものを出玉に応じて交換する
その特殊景品はそれを買い取るショップで買い取られる
この「三店方式」と呼ばれるシステムにより「ギャンブルではありませんよ、遊戯ですよ」という形を保っている
つまり、特殊景品というのはお金そのものであると言える
「木咲さんも腰が悪いみたいなんですよね」
休憩室で恭介に声をかけてきたのは花崎さん
なんかちょっとリスっぽい女性だ
「木咲さんもなんですか?花崎さんは大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫です。スロットやカウンターに入る事も多いので、藤原がいる日は出勤したくないですが」
「…解ります。無理はしないでください」
「ありがとうございます」
休憩室ではよくある会話だ
翌日恭介は6日ぶりの休日をまた寝て過ごした
起きて欲しくない事は、何故か恭介のいない日に起こる
その日は出勤早々普段使わない会議室に呼ばれた
本社の人間だ
「冴島君、お疲れ様です。仕事には慣れてきたかな?腰を痛めた経緯を教えてほしいんだけの」
「(労災の…ずいぶん遅いな)解りました」
時間にして10分位だっただろうか
「それじゃあ会社で精査した後で連絡します」
「…解りました」
本社の人間というのは、どうしていつもタイミングが悪いのだろう
「冴島君」
今度はなんだ
「ちょっと事務所に来てくれ」
久しぶりに鏑木店長の顔を見た気がする
ずいぶん険しい顔つきだ
人が4人も入れば身動きが取れない事務所に鏑木と冴島は座る
「昨日休みだったね、実は昨日特殊景品が無くなるという事があった、2500円の景品が100枚」
「え…25万円分って事ですか?まだ見つからないと?」
「まだ見つかってない、これから細かく調査するけど、昨日カウンターに入っていて、今日出勤予定の花崎も来ていないし、連絡も取れない」
「…花崎さんが盗んだと?」
擬音でいうならピリッ
だろうか
空気が張り詰めていくのを感じる
「証拠もない、話を聞ける相手もいない。断定的な事は言えない。これから少し営業のスタイルが変わっていくからそのつもりで」
「…解りました」
恭介がホールに入ると、上田がカウンター内で特殊景品を機械に詰めている所だった。
今まではカウンターに入るスタッフがやっていた事だ
恭介は花崎と仲の良かった木咲に話を聞いた
「どうなってるんですか?昨日いなかったし、全然状況が解らない」
「皆同じような感じ、今日出勤したら特殊景品がなくなったって朝礼で言われて」
「…花崎さんは?」
「……連絡が取れない」
「…仕事に戻りましょう」
特殊景品の管理は当然ながら厳重に行われている
それが100枚、1ケース分失くなる
働きはじめて2ヶ月の恭介でもこの深刻さは理解出来る
「城崎君、木咲さんに事務所に来て欲しいからそれ踏まえて回して」
「解りました」
鏑木からのそうしたインカムは恭介が知る限りは初めてだった
木咲だけではない
その日来てたスタッフは順番に事務所に呼ばれ色々聞かれた
聞かれた事は大きく分けて2点
「特殊景品の場所に心当たりはないか」
そして
「花崎の事について」
入社して2ヶ月の恭介には、そもそも具体的な話すら聞かされる事はなかった
ただ
職場の空気や、皆の表情が
ただ黒く沈んでいくのだけを感じる事しか出来なかった
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