第6話 恭介の悲鳴

慣れてきたといっても休日は寝るだけになってしまう


賃金を得てもそれを使う事なく時間が過ぎていく事に、どことなく不安を感じる


そんな事を思える位には余裕が出てきた翌日の出勤


「あれ?」

朝礼をする部屋にはコースごとにその日出勤する人の名札が貼られているのだが


堀田さんの名前がない


体調でも崩したのだろう

そう思って誰にも聞かなかった


しかし、堀田さんが来る事は2度となかった


パチンコ屋には頭取り(あたまどり)という作業がある


要は近隣にある店の客の数を数えて来るというもの


慣れてしまえば、散歩がてらに気晴らしに行ける作業なのだが、最初は驚くほど時間がかかる


だいたい最初は熟練の人と一緒に行くものだが


行ったことない堀田さんは行くことになり、本来スロットの方の数も数えなくてはならないところ、解らず、パチンコの客数だけ記入して戻ってきてしまったようだ


話は変わるが、インカムというのは、基本的には付けている全員に一斉に話が出来る


逆に言えば


インカムを通して誰かを叱責しようものなら


その人のミスも怒られている事も全員に伝わる事になる


さながら公開処刑と言っても過言ではない


慣れている人ほど、その事実を軽視する


堀田さんは、頭取りのミスを上田主任からインカムを通して叱責された


恭介がその事を知ったのは


もうどうにも出来なくなってからだ


「よくある事だよ、残念だけど」

木咲さんは少し悲しそうに言っていた

職場から連絡なしに消えるというのは


同時にそこでの人間関係も消える事が多い


恭介は慣れてなかった


今までしてバイトでも、それまでいた人がある日突然来なくなる事を経験した事はなかった


「この業界、本当にバックレとか多いから」


山本も城崎もそんな事を言っていた


でもそれは、ちゃんと状況を作って教えれば良かっただけなんじゃ


恭介はその場にいなかった


状況も聞いた範囲でしか解らない


それでももやもやが消える事はなかった



ゴールデンウィークも終わり、恭介の身にも突如異変が起きる


ゴールデンウィークの忙しさが終わった直後の休日


朝目覚めると身体が動かない


身体というより下半身に力が入らない


「…腰が…」


パチンコ店では、店を閉めた後新台を入れ替えるという日がある。


大型の入れ替えになると2〜30台を入れ替えるのだが、台の重さはスロットになると50Kgを超えてくる


この作業はバイトの人が帰った後も行われ、主に社員だけで行われるが


遅番に主に入る恭介はそれを1人で運んでいた


1人でやる必要はない、ただ他に誰もやらなかっただけ


病院に行ったが、幸いヘルニアなどにはなっておらず、筋肉の炎症程度に留まっていた


コルセットをもらい会計を済ます

「今回の事例は労災範囲内の事例になるかもしれないので、保険適用外になります。会社と相談して下さい」


会計は1万を超えていた


翌日には、店長である鏑木に報告し、本社からの返答を待つ事になった


そしてこれを機に、比較的腰に負担の少ないスロットのホールでの仕事が始まっていく


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