第5話 上田のインカムは注意報

パチンコというものは、当たりやすいが当たってもちょっとしか玉が出ないものと、当たりにくいが当たったたらとても出る、かもしれないものがある。


この後業界的には常に規制と闘っており、台の様式も変化していくが、2011年の頃には当たったらとても出る台かもしれない台が多く出てきており高い人気を得ていた


ナタデココの一階はパチンココーナー。6つのコースに分かれて、おりそれぞれテーマごとに設置台が振り分けられていた


働く側も、そのコースを担当する人間と状況を見てフォローし、指示を出す人間で構成される


最初の頃恭介が多くその時間を過ごしたのは2コース


要は当たったらとても出るかもしれない台で構成されたコースだ


端的に言えば、客も多いしだいたい毎日出るのでとても疲れるコースである


時期は5月に入り、ゴールデンウィークで常に混んだ店内


「木咲さん、流しに入るので2コースのランプお願いします」

「了解〜」


あれだけ聞こえなかったインカムがふと聞こえるようになり、コミュニュケーションを取りながら働く恭介


変わった事はもう一つ


「冴島さん、あそこのお客様少し様子がおかしいのでちょっと様子見ておきましょう」

「了解しました」


現在指導する立場は山本から城崎に移行したような状態である


もともと恭介はいずれホールの指示出しをする立場である


ナタデココが出来た時から指示出しのポジションで働いている城崎の指導を受ける事で、パチンコ屋で働き方を少しずつ理解していた


「そういえば山本さんは早番に移ったの?最近遅番で見ないけど」

「早番今人がいないみたいで、山本さん頼まれると断れないからね」


それはどうなのよ山本さん


冴島と城崎には、些細な会話も増えた

年齢が同じだった事もあり、城崎が1度腹を括ってからは仲良くなるのに時間はかからなかった


「城崎君、ちょっと事務所来て」


ん?あまり聞いたことない声が聞こえる


「了解です、冴島さん休憩入って下さい」


「了解です」

恭介が休憩室に行くと堀田さんという女性が先に休憩に入っていた


「お疲れ様です、冴島さんもう慣れましたか?」

「身体は慣れてきました、あとはまだ全然です」

「私も全然です。大変ですよね」

堀田さんはほんわかした空気で優しく微笑んだ


「そういえば、さっき城崎さん呼んでたの誰の声ですか?」

「あれは多分上田主任です。城崎さんがいる時は滅多にインカム飛ばさないんですけどね」


そういえば働き始めてからほぼ事務所には行ってない

未だに役職の事も覚えていなかった


「ああ、休憩終わる、行ってきますね」

「はい、行ってらっしゃい」


堀田さんとの会話が、これが最後になるとは

思ってもいなかった

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