第4話 ヤツとの出会い

アルルカンを一通りプレイして驚いたのは、現実と大差無い程にバリエーションに富んだアクションが実装されている事だ。

表情から身振り手振りまで基本的な物からいつ使うのか分からない珍妙な物まで揃っている。あとは町や施設も再現されていて、実際にある建築物から架空の未来都市の様なエリアまで様々な空間を自由に出入り出来る。

一通りチェックした後、さらなる探索もかねて初めて生配信をする事にした。


「初めまして、カモメって言います!今日はアルルカンの探索をしていきたいと思います」。


正直言ってかなり恥ずかしいが、不特定多数の人に見られる可能性がある以上こういう時こそ謙虚で誠実に振舞おうと思った。

何よりも好感度がものを言う世界だ、慎重に行動しなくては…。

ふと大通りの交差点に差し掛かった時、私の目に嫌な光景が飛び込んできた。

ビルに設置されたスクリーンに映し出されたバイト店員炎上の文字、他でもない私の事だった。まるで指名手配犯のような気持ちだ、実際は悪い事などしていないのに。

でも今は別人になっているんだ、誰にもとがめられることは無い、落ち着いてここはやり過ごそう。

しかし事態は急変する、曲がり角の向こうに突如現れたのはステージを組んで生歌を披露している配信者だった。

周囲の人間に罵詈雑言を浴びせられながら、彼は歌っていた。

確かに決して上手いとは言えない、音程も滅茶苦茶だし歌い方にもかなり癖があった。

にしたって一人の人間を大勢で囲って目も当てられないような罵声を浴びせるのは如何なものか、なにより今の自分の現状と重なってたまらなくなり気が付けば体が動いていた。


「あなた達、一人に寄ってたかって暴言を浴びせて、これはれっきとした虐めだ!恥ずかしくないのか?」


すると暴言の矛先は私にも向けられた、怖気づいてしまう気持ちは止められないがそれでも私は正しい事をしたんだ。

するとステージで歌っていた男性の演奏が終わり、彼にチャットで「ちょっとステージ裏で話そうぜ」と指示された。


言われるがままに向かうと彼は居た、目まで隠れた長髪を二つ結びにして首には厳ついチョーカーとかなり奇抜な井出立ちだ。

まるでアニメやゲームに登場するエキセントリックな悪役を彷彿とさせる。

彼は大げさな身振りをしながら私に話しかける。

「さっきはどうも善良なる心を持つ偉大な勇者様よ、市民に罵倒される哀れな俺には付き物のとっておきお涙頂戴エピソードを一つ教えてやろう。

簡単に言えば自分で蒔いた種なのさ、自業自得、因果応報って訳、どうだ泣けるだろ」


は?この人が何を言っているのかわからない、男は続ける


「人助けは結構な事だが悪いな、俺は望むべくしてあの場所にいたのさ、罵声を浴びせられながら歌うなんて絵になるだろ、ビバ撮れ高、爪痕残そうぜ!」

「俺は思う、エンターテイメントとは元来日常では味わえない理想や願望を表現できる物、醜くおぞましくても、破綻していても他者の表現する権利を侵害しない限りは作品としてまかり通ってしかるべきだ。

それがなんだ企業や運営様の靴ペロペロよろしく好感度稼ぎだコンプライアンスだと、こんなの現実と何が違うって言うんだ?

だから俺は今の常識人ばかりがのさばるアルルカンはクソだって、もっと自由であるべきだって歌ったのさ、名付けてアナーキーインザアルルカン!」


最もらしく言ってはいるがつまり喧嘩を吹っ掛けたのはそっちという事じゃないか、見返りを求めていた訳ではないが心配して損をした気分だ。

私はついムキになって反論した。


「好感度も常識も大事だと思いますけどね!攻撃的な事言っちゃう誰かさんよりもね」。


目の前の男は相変わらずの調子で話す。


「誰の事を言ってるのかさっぱりわからんが何も良い子ちゃんが悪いと言ってるんじゃねぇ、ただ俺みたいな性分はあいにく現代社会じゃ居心地が悪くてね、居場所が欲しいのさ!

この下らないアルルカンをぶっ潰す!

そして変える事こそが俺の夢よ。

それに悪名は無名に勝ると言うだろ、消え去るより燃え尽きる方が良いってどこかのロックンローラーが言ってたぜ」


数分話してどうも私とこの人は決して分かり合える事の無い存在だと感じた、一度話し出したら止まる気配を見せない彼を振り払うかのように撮影を終了して一先ずログアウトする。

一体何だったんだあの人は、気にしても仕方ないし考えるのはよそう。

それから一か月程たち動画の観覧数も徐々に増え応援のコメントが付くようになった。

登録者も徐々に増えもう少しで300人を超える、出だしとしては順調だろう。

反響があったのか、ゲームのオリジナル企画の招待状が私宛に届いていた。

これは喜ばしい事だ、他の配信者とコラボすれば一期に知名度が上がるチャンス。

誘いを承諾したちまちゲームエリアへ向かう私を待ち受けていたのは…。


「才賀かもめだな?」


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