第1669話 揚げパン

 なんか館でお菓子コンテストをやっていた。え、なに? どうしたん?


 ちょうどメイド三人衆がいたのでお尋ね申した。


「レヴィウブにお菓子の店を出すことになったんです。その人選をお菓子作りで決めるそうです」


「あーレヴィウブな。レヴィウブ?」


 なんだっけ? 


「帝国にあるカイナーズホームみたいなところです」


「マダムシャーリーのお店ですよ」


「あーハイハイ。お玉さんのところな。レヴィウブ、そんな名だったっけ」


 最近いってねーからすっかり忘れてたわ。


「あそこもいってみねーとな」


 カイナーズホームとは違ったおもしろさがある。皇帝の弟と会うのはノーサンキューだけどよ。


「それで、なにかありましたか?」


「あ、そうそう。手持ちの菓子が切れそうだから補充したいんだよ。なんかあるかい?」


「それでしたらこちらにあります」


 と、メイド三人衆に案内されて食堂を出た。


 階段を降りて地下に向かう。てか、地下一階、もうオレの記憶とはまったく違ってんな。なんだい、ここ?


「第二食堂です。メイドも増えたので」


 ハイ、それはオレのせいですね。わかってますわかってますって。


「食堂ってか、なんかフードコートっぽくなってんな」


 いくつかのブースに分かれ、ファミリーセブンもあった。いや、一階にもあったよね?


「ここのファミリーセブンは館の者が利用して、一階のファミリーセブンはブルー島の者が利用するようにしています」


 なんの住み分けだ、そりゃ?


「お菓子でしたらあそこのブースですね」


 セイワ族のメイドさんが指差した先に洋菓子店とメロンパン店があった。


「洋菓子店はわかるが、なぜにメロンパン?」


 いや、オレもメロンパンは好きだが、誰のチョイスでそうなったのよ?


「カイナーズホームでメロンパンが流行りまして、館でも作って欲しいとの要望が上がり、サプル様監修で開きました」


 我が妹様は相変わらずのようだ。


「兄が兄なら妹も妹ね」


 今のはみっちょんだよ。最初からついてきたんだぜ。皆知ってた?


「オレが持ってってイイのかい?」


「構いません。最近、飽きてきたせいで余り気味なんです」


 じゃあ、違うのを焼けよ。捏ねるのは違っても焼くのは機械なんだろう? すぐ変えられんじゃねーの?


「サプル様が飽きるのを待ってます」


「あー。サプルは飽きるまで長いからな~」


 一度嵌まると一月は続く。それまではメロンパン地獄は続くだろうよ。


「なら、もらえるだけくれや」


「畏まりました」


 他のメイドも協力してくれ、材料すべてを使ってメロンパンを焼いてくれた。


「あ、あんちゃん。久しぶり。どうしたの?」


 えっちらほっちらメロンパンを無限鞄に詰めてたらサプルがやってきた。ほんと、久しぶりです。


「手持ちの菓子が尽きたんでな、メロンパンをもらってた。構わんか?」


「イイよ。そろそろ違うのを作ろうと思ってたし」


「そっか。なら、次は揚げパンを作ってくれ」


「揚げパン?」


「コッペパンを油で揚げて砂糖を振りかけたものだ。あ、きな粉もイイな」


 昭和生まれには揚げパンは神だ。揚げパンと牛乳。神の組み合わせだと思う。


「カイナーズホームに売ってるかな?」


「売ってると思うぞ」


 カイナなら絶対に外してないだろう。あ、あいつ平成生まれだっけ。平成も揚げパンが給食で出たのかな?


「ちょっといってくる」


 サプルのやる気スイッチが入ったようで、クルっと回れ右して食堂を出ていった。


「揚げパンは美味しいのですか?」


「旨いぞ。食べすぎると胃もたれするがな」


 そのための牛乳だ。牛乳と一緒なら二つはぺろりだな。


「あ、揚げパンにソフトクリームを挟んで食うのも旨かったっけな~」


 あいつが好きな食い方だったっけ。今度、居候さんに持ってってやるか。最近、会ってねーしな。あと、サリバリやトアラにも媚を売っておかねーとまたドやされる。


「ここ、ソフトクリームはあるかい? メロンパンもソフトクリームを挟むと旨いはずだ」


「補給部に連絡! 至急材料を確保しなさい! サプル様が帰ってくるまで作れるだけ作るわよ!」


 なんだ、いったい? なんかオレ、火をつけちゃった感じ?


「オ、オレはこれで充分だから、あとはそっちでなんとかしてくれや」


 二百個は無限鞄に入れられた。そんだけあればしばらくは持つだろうよ。あ、洋菓子店もあったんだっけな。メロンパンに意識がいっている間にいただくとしようかね。


 騒ぎから抜けて洋菓子店に。結構あるんやな~。


「メイドさん。テキトーに包んでくれや」


「畏まりました~」


 箱に入れてくれたものを無限鞄に放り込んでいく。てか、どこから出してきてんの? 結構な量だけど?


「奥の厨房で作っています。見習いの練習も兼ねているので遠慮なく持ってってください」


「余ったのは捨ててんのか?」


 そうだったら看過できんぞ。うちで食い物をロスするのはご法度だ。


「ミタレッティー様より無限鞄をお預かりしているので、余った分はそこに入れてあります。いずれべー様が使うだろうとおっしゃっておりました」


 さすがミタさん。農作業ガールになっていても万能メイドは健在である。


「それはなにより。あるだけくれや」


 ミタさんはミタさん。オレはオレ。食糧はいくらあっても構わねーさ。

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