第1670話 物見遊山
「弟子のばーさんいるかーい?」
用事を済ませて薬所に戻ってきた。
「先に帰ったよ」
「積もる話もなかったのかい?」
語り合うことが多いだろうと一晩館に泊まったんだがな。いや、泊まったって表現もおかしいと思うけどよ。
「聞きたいことは聞いたよ」
「会いたくなったらいつでもいいな。一緒にはっちゃけていたヤツんとこまで連れてってやるからよ」
「お前には頼らんよ。下手に知られるとうるさいからね」
別にからかったりしねーよ。心の中で「ニシシ」と笑うだけさ。
「まあ、それならそれで構わねーさ。恥ずかしい過去もあるだろうしな」
どんなに老いぼれようと女は女。女の会話の中に入ろうとは思わねー。そんなの地獄に自ら入るようなものだ。
「じゃあ、またな。次に来るまで生きてろよ」
「そう簡単に死なんよ」
そりゃそうだと笑いながら転移結界門からハブルームに入った。
「マリンベルに続く扉は消すな」
「はい、わかりました」
魔女さんたちに挨拶をしてハブルームからマリンベルへ。転移結界門を消した。
「ん? なんだ? 騒がしいな?」
馬車が減ってんな。出発したんか?
「ベーくん!」
なんやろう? と見てたらそばかすさんとユウコさん、そして、脱着可能な幽霊がやってきた。メルヘンはオレの頭の上にいまっせ。
「おう。なんかあったのかい?」
「魚を仕入れられたから出発するんだって」
「加工しねーでか?」
生のままでは運べねーだろう。
「加工は別の町でするみたいよ。王都は忙しいからって」
へー。別の町でも加工なんてできんだ。アーベリアンとは違うんだな~。
「ロイさんの隊商もか?」
「べーくんが出した箱に入れるみたいだから明日に出発するみたいだよ」
あー。収納鞄や収納箱を渡したっけな。
「今は挨拶回りしてるってさ」
「べー様」
「やっと戻ってきたか。相変わらず狙ったように現れる子だよ」
アダガさんと巨乳なねーちゃんもやってきた。いたね、あなたたち。すっかり忘れったわ。
「二人は用意し終わったのか?」
「そう大きい商売をするわけじゃないしね。今回はロイの商売を見学させてもらうよ。マリンベル自体、初めての国だしね」
「わたしも同じです。今回は勉強させていただきます」
まあ、好きにしたらイイさ。オレも九割は物見遊山できてんだからな。
「オレも用意すっか」
「用意?」
「さすがにこれだけの人数が増えたら乗るとこねーだろう。乗り物はこちらで用意するんだよ」
隊商の馬車にゆとりはねー。載せれるだけ載せるものだ。そんなところに大人数を乗せろは迷惑でしかねーよ。
無限鞄からゼロワン改+キャンピングトレーラーを出した。なんか久しぶり~。
「オレらはこれでいくよ」
そう言ってキャンピングトレーラーに入った。
いつもならミタさんが食料や備品の補充をしてくれてたが、農業女子中なので自分でやるしかねー。
冷蔵庫を開け、カイナーズホームで買ってきた飲み物や食材を詰め込んだ。
「腹減ったら好きに出して食えな」
料理も館の厨房からたくさんもらってきた。数日は持つだろうよ。いや、そばかすさんだとすぐなくなっちゃうか? まあ、そんときはロイさんに食材を渡して作ってもらうとしよう。
「タンクの水はどのくらいだっけ?」
水が入ったタンクは外からじゃねーとわかんなかったはず。どこだったっけ?
開けられるところを開けていき、後部にタンクがあった。
「大丈夫っぽいな」
結界で拡張したからしばらくは持つだろう。
「べーくん。皆ここで寝るの?」
「いや、拡張させるよ」
オレは別に気にしねーが、六人(幽霊は入りません)ともなれば狭すぎる。左右にどこでも部屋を創るとしよう。あらよっと! で完成よ!
「そっちは女部屋な。必要なものはこの棚に入っているから好きに使え」
ここも結界で拡張してあり、ミタさんがいろいろ入れておいてくれた。毛布、クッション、エトセトラ。本当にありがとうございます。
「アダガさん、ほらよ」
いろんなものを出してアダガさんに運んでもらった。オレはキャンピングトレーラーのソファーで充分。男部屋はアダガさんに使ってもらうことにしよう。
「べーくん。なんかオヤツない? 皆忙しくて朝、あんまり食べれなかったんだよね」
君のあんまりは信じられないよ。小腹が空いたと言って五人前は食ってんだからよ。
「メロンパンならたくさんあるぞ」
揚げパンはまた今度だ。
「おー。メロンパンなんて久しぶり~」
「食ったことあんのか?」
そばかすさんならどこかで食ってても不思議じゃねーがよ。
「うん。たまに食堂で出てた。ただ、人気だったから一人一つって決まりだったんだよね」
今では飽きられてたがな。まあ、ソフトクリームを混ぜることで再ブレークしそうだったがな。
「まあ、いっぱいあるから飽きるほど食うとイイさ。溶けたバニラアイスを挟むと旨いぞ」
ソフトクリームは面倒なのでバニラアイスにしました。コーヒーに入れても旨いからな。
「おー! それは美味しそうな組み合わせだね。やってみる」
「これがパンなのかい?」
「パンはパンでも菓子パンだな。食いすぎると太るから注意しろよ」
ほとんど砂糖の塊のようなもの。ほどほどにしろよ。
朝食ったのでオレはバニラアイスをコーヒーに入れて楽しむとしよう。うん。ウメーぜ!
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