第1667話 食う専門

 暴竜の首を船首に括りつけて港に入ると、それに気づいた者たちが小舟に乗って集まってきた。


「砂糖に群がるアリのようだ」


 さすがに光の矢を撃つわけにもいかねーので、結界を張って乗り込んでこねーようにして進んだ。


「べー。あそこの桟橋につけてくれ」


 魔術師のじーさんが指差す方向に向かい、船首を前にして桟橋につけた。


「クレーンなんてあんだ」


 人力のクレーンだが、こんなのアーベリアンの港でも見たことねーよ。マリンベルって想像以上に発展してたんだな。


 役人らしき連中が集まってきたが、対応は風の勇者パーティーに任せる。


「べーくん。わたしたちはなにもしなくていいの?」


「これは風の勇者パーティーの仕事。でしゃばる必要はねーさ」


 オレらは協力したまで。報酬をもらえばそれで終わりさ。


 作業を見守り、無事、暴竜の首は陸へ。そして、どこかに運ばれていった。


「今回は助かった。報酬はどうする? ギルドにいけばすぐに支払うことはできるが」


「オレらは船を片付けるからあとでイイよ。まさかA級の冒険者パーティーが支払いを誤魔化すわけもねーしな。もし余裕があるなら隊商広場まできてくれや。明日以降にはいると思うからよ」


 予定は未定なのでいるかどうかは知らんけどな!


「わかった。では」


 風の勇者パーティーとはそこで別れ、オレらは一旦港を離れた。その際、こちらに接触しようと近づいてきたヤツらは無視。これ以上、付き合ってらんねーよ。


 港から出たら漁港まで向かい、途中から小舟に乗り換える。


「メイドさんたち、もういイイぜ。また用があったら呼ぶからよ」


 赤鬼族とセイワ族はまだしも蛇人族はさすがに不味い。まだ魔族が出歩けるところじゃねー。わざわざ騒がれることをする必要もねーさ。


 今さらだな! とか言いっこなしだぜ☆


「畏まりました。では──」


 と、シュンパネで帰っていった。


 クルーザーを小さくして無限鞄にポイ。小舟で漁港に向かうと、なにやら騒がしかった。どした?


「暴竜が退治されたそうだ!」


 近くのおっちゃんに教えてプリーズしたらそんな答えが返ってきた。


「もうかよ」


 悪事千里を駆けるとは言うが、善行も同じくらいで駆け巡ってんな。


 漁ができると動き出しており、小魚の漁は終わりにしていた。


「すまんな。暴竜のせいで失った稼ぎを取り戻さなくちゃいかんのだ」


 泊めてもらった漁師のおっちゃんも大忙しだった。


「構わねーよ。充分すぎるほど捕れたからな」


 結界生け簀二十五個分。一生分の小魚を得られたと言ってイイだろうよ。


 漁師のおっちゃんとおばちゃんに挨拶をして漁村をあとにした。


 街道に出て王都に入ると、暴竜が退治されたとの声があちらこちらから聞こえてくる。ほんと、伝わるのが早いこった。


「べーくん。お昼にしよう。わたし、お腹空いたよ」


 そういう食いしん坊セリフは求めちゃいねーが、確かに腹が減ってきたな。そこら辺の食堂で昼食とするか。


「じゃあ、そこで食っていくか」


 大通り沿いにある食堂。不味いもんは出さねーだろう。


 ってことでお邪魔しまーす。とりあえず大銅貨一枚分をテキトーに持ってきてチョンマゲ~。


「羊料理か」


 たまにある羊料理の専門店。羊は比較的飼いやすい家畜だが、ただそこら辺の草とちゃんとしたエサを食わせている羊は違う。この店はちゃんとしたエサを食わせた羊を使った店だ。しかも、香辛料が利いててスパイシー。

 

「この骨つきにかかった緑のソース、激ウマだな」


 野菜なのはわかるが、なんの野菜かまるでわからねー。なんだこれ?


「たぶん、春草とマエラキノコ、あとよくわからない香辛料を混ぜてあると思う」


「ただの食いしん坊じゃなかったんだな」


 いや、食い物の知識はバリッサナでわかっていたが、味からなんでかまでわかるとか味覚もスゲーな。


「魔女じゃなく料理人になったほうがイイんじゃねーか?」


「わたしは作るより食べるほうが好きかな」


「食う専門か。まあ、世界の料理を知るなら作ってる暇はねーな」


 食う専門もいてもイイだろう。そばかすさんの場合はただ食っているわけじゃなく、ちゃんと食ったものを知識として蓄積している。そばかすさんほど食うことに貪欲なヤツはいねーんだからこのままでイイだろうよ。


「食べたことがない料理をまだたくさんあるんだもん、料理している暇はないよ」


「ふ。そばかすさんらしいな。いっぱい食っていっぱい料理を知るとイイさ」


「じゃあ、もっと頼んでいい?」


「食えるだけ食え。なんなら持ち帰りできねーか訊いてみるか。おばちゃーん。持ち帰りしてーんだが、できるかい?」


 ここの女将さんっぽいおばちゃんに声をかけた。


「ああ、できるよ。何人前だい?」


「十人前は可能かい? 入れ物はこちらが用意すっからよ」


 銀貨一枚出して尋ねた。


「大丈夫だよ。急ぎかい?」


「いや、ゆっくりで構わねーよ。ツレがまだまだ食うんでな」


 おそらくまだ前菜を食ったくらいの感じだろうよ。


「あはは。今日は大繁盛だね」


「前金を渡しておくよ。足りなくなったら言ってくれや」


 銀貨二枚を先に渡しておく。それでここの価格もわかるからな。


「あいよ。どんどん持ってくるよ」


「お願いしまーす!」


 そばかすさんのエンジンがかかったようで、次々と出される羊料理を胃袋に収めていった。あと、みっちょんもな。

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