第1664話 ロットラー
「飽きねーな」
一日中甲板に立って海を見詰める風の勇者さんたち。オレも釣りなら何時間でも待てるが、さすがに一日中は飽きてくるぞ。
「職業意識が高いのでしょう」
まあ、A級冒険者。下手な仕事はできねーか。
「べー様。漁港にいる者から連絡です。生け簀がいっぱいになったとのことです」
「あいよ。ちょっくらいってくるわ──」
サクッといって生け簀の小魚を収納鞄に収めて戻ってきた。
「メイドさん。イカが捕れたからこれでなんか作ってちょうだいな」
クラーケンすら美味しく料理しちゃう(いろんな意味で)メイド三人衆。通常のイカくらい問題ねーだろうよ。
「畏まりました。イカフライにします」
お、イカフライか。それは楽しみだ。
よろしこ~とお願いして甲板に向かい、炬燵に入ってマン○ムタイム。コーヒーうめーでござる。
「ベーくん。中華が食べたくなったよ~」
中華110番を読んだそばかすさん。君は影響されすぎだよ。前は将太のシースーを読んで寿司を食いたくなってんし。
食いしん坊にグルメ漫画は拷問だな。てか、そばかすさんもそうだけど、漫画の世界観とか気にならんのだろうか? まあ、いろんな国を見てれば気にもならねー……か?
「カイナーズホームの惣菜売り場でなんか買ってこいよ」
千円と転移バッチをそばかすさんに渡した。
「わたしもいく!」
ユウコさんとオ○ロをしていたみっちょんがテイクオフ。そばかすさんの頭にパイ○ダーオンした。ハイ、いってらっしゃい。
みっちょんの代わりにユウコとオ○ロを打った。
「……ユウコさん、何気に強いな……」
危うく負けるところだった。この世界、オ○ロ強いヤツ多すぎ!
「そ、それほどでも……」
「これだけ考えられるならチェスもできそうだな」
せっかくなのでチェスを出して教えてみた。
この人、頭イイな。一回で駒の動かし方を覚えちゃったよ。
とは言え、それで勝てるほどチェスは甘くねー。すぐに勝てるなら誰でも世界チャンピオンになれるよ。
「もう一度お願いします」
負けず嫌いなのか、負ける度に燃え上がるユウコさん。なんかあっと言う間に追いつかれそうだ。
「べー様、戻りました」
脱着可能な背後霊が海から出てきた。なんのホラーだろうな?
「ベー様が海の中を見てきてくれって言ったんじゃないですか!」
うん。覚えているよ。ちょっとした本気だよ。
ユウコさんに乗り移ったレイコさん。近くにあった盆の角で殴ってきた。痛くはねーが、暴力は止めてちょうだい。
「ユウコさんとチェスやってんだから邪魔すんなよな」
結界でレイコさんを引っこ抜いてやった。
「ベー様の力、卑怯すぎます!」
オレもそう思うよ。まさかレイコさんを引っこ抜けるとは思わなかったよ。
チェスを続けてオレの勝利で終わった。ふー。今のはちょっと危なかったぜ。
「で、どうした?」
炬燵の真ん中から顔を出すレイコさん。なんのホラーごっこだよ?
「ふーん」
結界でレイコさんの頭をつかんでユウコさんの体に押し込んでやった。
「だからベー様の力は卑怯すぎます」
ハイハイ。卑怯卑怯。だから報告してチョンマゲ。
「もー! ベー様のアホ!」
だから盆の角で殴らないでちょうだい。痛くはねーが、屈辱的だよ。
かんしゃく幽霊が気が済むまで殴られていると、クルーザーを囲むヘキサゴン結界になにかが侵入した。
「人魚か?」
「ハルの町の冒険者がいました」
皆は忘れているだろうが、ハルの町とはウルさんが纏める人魚の町ね。あ、違ってたらゴメンコリン。
炬燵から出て甲板縁に立つと、人魚の男が顔を出した。
「ベー様ですか?」
「おう。ハルの町の冒険者なんだって? 随分と遠くまで来てんだな」
アブリクトまでは活動範囲になっただろうが、マリンベルまでは三百キロは離れている。人魚からしたら未開の地だろう。よく来たもんだと思うよ。
「はい。ロットラーがいるので」
ロットラー? なんじゃそりゃ?
「へー。そんなのが住んでんだ」
「はい。ここら外海に半日泳ぐと岩礁地帯があってそこに生息してました」
「ました?」
ってことは今はいねーってことか?
「怪我をした海竜が住み着いて逃げ出してしまったんです」
おっと。なにも言わんでくれよレイコさんや。オレのせいだってわかってっからよ。
「こういう海竜じゃなかったか?」
はっきりとは覚えてねーが、こんな風の海竜だと結界で形創ってみた。
「はい。その海竜です」
ハイ、ゴメンナサーイ! すべてオレが悪いでーす!
「ワリーが案内してくれっかい?」
「ベー様。まだライラ様とミッシェル様が戻っておりません」
あ、そうだった。転移バッチだと位置固定だった。クルーザーを移動させたら海にポチャンだよ。
「あんた一人かい? 仲間がいるなら連れて来な。食事を出すからよ」
「わかりました。すぐに連れてきます」
「メイドさん。人魚用の食事も頼むわ。野菜中心でよ」
ここじゃ野菜も食えねーだろうからな。たくさん用意してやろう。
「風の勇者さんたち。暴竜の情報を得られた。明日の朝に出発すんぞ」
まずはイカフライが優先。暴竜は明日だ。
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