第1662話 言えねーな!

 朝、太陽が昇る前に目覚め、家を出て海岸に。コーヒーセットを出してコーヒーを淹れ、飲みながら朝日を待った。


「うん。方向が違ったよ」


 太陽は背後から昇ってきました~。


「村にいる感覚で太陽を待っていたよ」


 まあ、それもよしだ。太陽の熱を背中に感じながらコーヒーを楽しもうではないか。


「おはよー」


「おはようございます」


 そばかすさんやレイコ(ユウコ)さんも起きてきて、目覚めのコーヒーを淹れてやった。みっちょん? その方ならオレの頭の上におりますよ。メッチャびっくりー。


「漁師の朝は早いんだね」


 オレが起きる頃にはおっちゃんも起き出して、朝食も摂らずに家を出て、今は他の漁師たちと海に出て漁をしているよ。


「べーくん。お腹空いた」


 花より団子なそばかすさん。君はほんとブレないよね。


「漁師さんたちにはワリーが、オレらは先に食わしてもらうか」


 土魔法でテーブルと椅子を創り出し、無限鞄から朝食を出した。


「なぜクロワッサン?」


「散々海のもん食ったからな、パンが食いたくなった」


 カイナーズホームで焼いているのか、大量にパックに入って売っていたのだ。二十四個入りで二百円とバカげた値段でな。


 ……思わず台に積んであったのすべて買っちゃったことは後悔してねーぜ……。


「シチューもあるぞ」


 これはサプルが作ったものね。オーク肉がふんだんに使われております。


「べー。勇者さんたちが来たわよ」


 自分の体より大きなクロワッサンを抱えながら食べるメルヘン。もう十個は食べてんのに飽きないよな。


「遅くなった」


 話しかけてきたのは剣士のおっちゃん。顔は厳ついのにコミュニケーション能力タケーよな。


「全然遅くねーよ。朝食ってねーなら一緒にどうだい? いっぱいあっから遠慮はいらねーぜ」


 オーク肉のシチューはまだいっぱいある。毎日でるからちょっとずつ収納鞄に入れてたんです。あ、手つけてねーからご安心を。


 テーブルと椅子を追加してやり、クロワッサンとオーク肉のシチュー(結界皿)を出してやった。


「遠慮なくお代わりしてくれや」


 まだ五十人前はあっからよ。


 最初は遠慮してたが、サプルが作った料理に勝てるわけなし。一口食べたら我を忘れたように食い始めた。


 ……あまり大したもん食ってねーみたいだな……。


 肉体労働しているだけに四人ともよう食うな。クロワッサンも五パックは完食した。


「これでも飲みな」


 褐色のねーちゃんが革袋の水筒から水を飲んでいたので、プララを出して絞り、ジュースにしてやった。


「他も飲むかい?」


 うん! と強く頷いたのでプララを絞って出してやった。


「べーくん、わたしも」


「わたしも」


「わたしもお願いします」


 君ら遠慮がないよね。まあ、オレも遠慮しねーときあるからなにも言えねーけどよ。


 ついでに自分の分も絞ってゴクゴクプハー! 旨い! ごちそうさまでした! オレは少食なんだよ! 一杯飲めば充分だわ。


「なにキレてんのよ?」


 オレの脳内劇場に突っ込まないで!


 食後のコーヒーを出してやり、膨れた腹を落ち着かせた。


「ベー、と呼んでいいか?」


「構わねーよ。ほぼそれで通ってっからな」


「そうだな。一応、正式に名乗っておくか。オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。長ったらしいからベーと呼ばれてんだよ」


「ゼルフィング? ザンバリット・ゼルフィングとなにか関係あるのか?」


 さすが親父殿。有名人だこと。


「義父だな。オレのオカンと結婚して息子となった。ちなみに冒険者は辞めたよ」


「ザンバリット殿が結婚!? 辞めた?」


「去年の秋くらいだな。今はアーベリアン王国シャンリアル伯爵領ボブラ村に住んでるよ。知ってっかい?」


 エリナを追っていたならシャンリアル伯爵領くらいは知ってんだろう。


「ああ。三、四年前に寄ったことはある。まあ、うっすらとしか記憶はないがな」


 それほど特徴がある村でもねーしな。うっすらと記憶しているだけ立派だよ。


「……月と湖とはザンバリット殿との繋がりか?」


「いや、そっちは別だな。アーベリアン王国の王都で出会った。今は……どこだ? まだボブラ村にいんのか?」


 なんか最近、会ったような見たような? どうだったっけ?


「まだおります」


 と、情報通なドレミさんが教えてくれた。


「あの二人、ボブラ村に住み始めたのか?」


 まさかフェリエが帰って来るまで住みつこうってのか? 金とかどーしてんだ? いや、A級だし、金はあるか。


「ときどき仕事には出ております」


 A級冒険者が受ける仕事なんてあんのか? 猪か鹿を狩るくらいしかねーだろう。


「ベーの村にはなにか竜でもいるのか?」


 竜以上のがたくさんいんな、とは言えねーな。言ったところで信じてもらえねーよ。魔王以上の存在が住んでるなんてな。


「なにもいねーよ。ほとんど狩り尽くしっちまったからな」


 オレがな! とも言えねーな。信じてもらえねーよ。


「あの二人の仕事には触れねーほうがイイぜ。かなり面倒な依頼を受けてるみてーだからな」


 真の雇い主は皇帝の弟だ。さすがの風の勇者パーティーでも関わることは憚れるだろうよ。


「……そうか。忠告を受け入れよう」


 さすがだな。君子危うきに近寄らず、だ。


「さて。腹は落ち着いたかい? 落ち着いたなら船を用意するぜ」


 四人が顔を見合わせ、うんと頷いた。


「頼む」

 

 んじゃ、やりますかね。

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