第1661話 ナチュラルバカ

 よく冒険者はパーティーを組むと名前をつける。


 いつからの風習かはわからんが、結構昔からそうみたいだと親父殿が言っていた。


 風の勇者ってのは個人につけられた異名ではなく、パーティーにつけられた名前のようだ。紛らわしいな!


「まあ、せっかくなのでどうぞ」


 フレンドリーなおばちゃんが家に招き入れた。


 オレらも客なので部屋の端に移動。風の勇者パーティーに席を譲った。


 風の勇者パーティーは四人。戦士のおっちゃん。魔術師の老人。斥候タイプのおっちゃん。そして、褐色の肌を持つ年齢不詳の美女。槍を持つところからして槍士って感じか。珍しいこと。


 ゴザの上に座りながら風の勇者パーティーを観察。あちらもこちらを観察するが、オレらは構わずコーヒーや紅茶を飲む。別にオレらに用ってわけじゃねーしな。ご勝手に、だ。


「すいませんね、狭くて」


「いや、こちらこそ申し訳ない。客がいるのに押しかけてしまって」


「こっちは気にしなくてイイよ。夕食は終わったし、あとは寝るまでゆっくりするだけだからな」


 おばちゃんに気をつかわせるわけにはいかんしな。こちらから先に口を開いた。


「感謝する」


 こちらがガキでも怪訝な表情は見せない。感謝を述べて軽く会釈した。百戦錬磨ってのがよくわかる。少しも油断しやがらねーよ。


「それで、どんな用なんだ?」


 漁師のおっちゃんが切り出した。


「昼間海に出たと耳にしたのですが、暴竜は現れなかったのですか?」


 風の勇者パーティーの交渉役は戦士のおっちゃんなのか、口調が丁寧だ。戦士でなく剣士なのかな? 意外と剣士ってインテリが多かったりするんだよ。


「ああ。まったく出なかったよ。結構な数の舟を出したんだがな」


「なにか現れなかった理由を思いつきますか?」


「うーん。そっちの坊主が雑魚ざぎょを高く買ってくれるってんで、暴竜のことなんて忘れてたからな~」


 欲とは怖いものである。暴竜すら忘れちゃうんだからな。


「そう言えば、昨日から暴竜を見てないな。いつもは背鰭が見えてたんだが……」


 それはオレが殴ったからだと思います。ごめんなさい。


「どこかに消えましたか?」


「そうだったらありがたいんだがな。海竜は縄張り意識が強い魔物だって言うからよ」


 へー。それは知らんかった。海竜って縄張りとかする生きもんだったんだ。


「舟を出してもらうことはできますか? 海に出てみたいのですが」


「無理だ。漁の舟なんかで外海には出れんよ。デカい波が来たらひっくり返っちまう」


 海のことまったく知らんパーティーのようだ。


「そこをなんとかできませんか?」 


「無茶言わんでくれ。あんなのと張り合うには魔道船でもなければひっくり返えされるのがオチだ」


「では、舟を出してくれる者はいませんか? 相応の礼をしますので」


「うーん。そう言われてもな……」


 百戦錬磨っぽいが、海でのことはまったく知らねーとみえる。長いこと冒険者をやっていれば伝手の一つや二つ持っているものなんだがな。あ、風の勇者って帝国のヤツだったっけか? 


「あんたら、もしかしてA級の月と湖パーティーを知ってたりしねーかい?」


「アフロディータとサンリーを知っているのか?」


 ごめんなさい。金髪アフロと神光の氏族って記憶しかございませんです。


「ああ、その二人だよ」


 たぶん、そんな名前だったってことにしよう。月と湖ってのは間違いねーんだからよ。


「じゃあ、やっぱり帝国の人かい。なんでまたこっちまで来てんだ?」


「魔王を探している」


「どの魔王だい?」


「…………」


「…………」


「べー様ベー様。一般の方にしたら魔王が複数人いるなんて思いませんよ」


 あ、そっか。魔王が当たり前になりすぎて忘れてたわ。


「君は何者なんだ?」


「オレはベー。アーベリアン王国のもんさ。マリンベルには魚探しに来た」


「申し訳ありません。この方、ちょっとバカなので言葉足らずなんです」


 今、ナチュラルにバカとか言っちゃったね。まあ、否定はしねーけど、もうちょっとオブラートに包もうよ。


「じゃあ、なんだと問われたら言葉に詰まりますが、冒険商人みたいな者です。月と湖とはちょっとした知り合いです。おそらくベー様は風の勇者パーティーが帝国の方なんじゃないかと好奇心にかられて声をかけたんだと思います」


「まあ、そんな感じだな。まるでこの地のこと知らねーみたいだったんでな」


「今の会話でそれらしいことは出してなかったんだが」


「だとしたら自分らは世間知らずと教えているようなもんだ。気をつけたほうがイイぜ」


「後学のためになぜか教えてもらえないだろうか?」


「漁師に舟を出せとか玄人の冒険者は言ったりしねーよ。海での依頼がいつ来てもイイようにちゃんと船を持つ冒険商人と伝手を持っておくもんだ。ましてや情報収集が間違っている。暴竜のことを知りたきゃ商船を持つ商人に聞いたほうが早いし、確実な情報を得られるものさ」


 漁師は勇敢ではあるが、一番海を恐れている存在でもある。危険があれば海に出たりしねーんだよ。この世界じゃな。


「海に出てーならオレが協力してやるよ。どうする?」


 せっかく風の勇者パーティーと出会えたんだから、その実力を見ておくのもイイだろうよ。


「では、頼む」


 即決即断。このパーティーは戦闘に極振りしたパーティーだな。


「了解。明日の朝、また来な。船は用意しておくからよ」


「わかった。また明日来よう」


 そう言って風の勇者パーティーは帰っていった。まさに風の如しだな……。

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