第1659話 漁師飯

 さすが本職。テキパキと動いて小舟を海に出すと、網をさっと投げて大量に引き揚げてきた。


 土魔法で創った箱を結界台車に載せて小舟の近くまで持っていき、皆で網を持ち上げて箱の中に放した。


「これなら腹を捌く必要もねーな」


 高温の油で揚げたらカリッと食えんだろう。あ、小麦粉をつけて揚げたほうがイイか?


 練炭コンロと鍋、油を出して温める。


 結界網で小魚を掬い、水を充分に切ったら小麦粉を振りかけて熱した油に入れた。


 イイ感じに揚がったら油を切り、塩を振りかける。


「美味しそう!」


「ほれ、たくさんあるから鱈腹食うとイイ」


 まだまだ小魚はある。腹がはち切れても食うがよい! オレは今から小魚揚げマシーンだ!


 あらよっ、ほらよ、どっこいしょー! 揚げ揚げ祭りじゃー!


「たまにべーって壊れるよね」


「プリッシュ様に聞きましたが、べー様って海に出ると壊れやすいと言ってましたね」


「潮風にべーを狂わすなにかが含まれてるのかしらね?」


 そこ。なに失礼なこと言っちゃってくれてんのよ? 揚げてなかったら細切れにしてやるとこだぞ。


 ──あ、細切れと言えばなめろうがあったな。


 鯵のなめろうとかあったはず。鯵ではねーが、そばかすさんもみっちょんも旨そうに食っている。それならなめろうでもイケるはずだ。


 てか、なめろうってどう作るんだっけ? 細切れにしている映像は残っているが、調味料がなんだったか思い出せねー。


 味噌、しょうが、あとはなんだっけ? 酒も入れてたか? まあ、味噌としょうがはあるし、この二つを入れときゃそれなりの味になんだろうよ。


 結界まな板に小魚を十数匹乗せて結界小乱舞! イイ感じに細切れになったら味噌とすりおろししょうがを入れてまた結界小乱舞。あまり細切れにするとカマボコになっちまう。こんな感じでイイやろ。どれ、味見っと。


「こんな味だったっけ?」


 なめろうなんてそんなに食ったこともねーから味が思い出せん。


「あ、べーくんなに食べてるの? わたしも食べたい!」


 君はほんと食いしん坊キャラになったね。オレの人生に食いしん坊キャラなんてそんなにいらねーんだよ。


「なめろうってもんだ。食いたきゃ好きなだけ食えや」


 次は酒も入れてみるか。


 あらよっ、ほらよ、どっこいしょー! どや?


「ん~。なんか違うな~」


「え? 美味しいじゃない。なにが不満なの?」


「なんか昔食ったのとなんか違うんだよな~」


 もっとこう、味に深みと言うかなんと言うか、なんか違うんだよな~。やっぱ異世界の魚だから違うのか?


「充分美味しいからいいじゃない。お酒あるならちょうだいよ」


 食いしん坊な上に飲兵衛なメルヘンだよ。


「ぼ、坊主。おれらも食わしてくれ。こんな旨そうな匂いさせられたら漁どころじゃねーよ」


 なんか漁師たちに囲まれていた。そんなイイ匂い出してたか?


「好きなだけ食いな。あんたらが捕った魚だしな」


 次はニンニクを入れてみるか。味見役はいっぱいいるんだしな。


 いろんなパターンのなめろうを作っていたら漁師の奥さん連中がやってきた。


「これ、生で食べても大丈夫なのかい?」


「捕ってすぐなら問題ねーよ。寄生虫が怖いなら煮るとイイ。魚の骨や野菜を煮て、味噌──ゴジルって豆を発酵させたもんを入れた汁は旨いぜ」


 なめろうもつみれも似たようなもんだろう。


「ゴジルかい? 誰か知ってるかい?」


「あたし、持ってるよ。北からきた隊商から買ったんだった。どう使っていいかわからず棚の奥に仕舞ったままだよ」


 ゴジル、マリンベルまで流れてきてんだ。スゲーな。


「どう作るんだい?」


「まずは包丁とまな板を持ってきな。一度、なめろうを作ってみるとイイさ」


 オレなんかより料理を作ってきた奥さまたち。何度か作ればこの地にあるものを使ってアレンジすんだろうよ。


 包丁を持ってきた奥さん連中になめろうの作り方を教えた。


 あ、飯にかけたなめろう丼、どこかの漁港で食ったっけな。奥さん連中に教えたら飯を炊いて漁師飯といこうかね。

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