第1658話 小魚

 あとはアダガさんに任せてオレらは王都探索を再開させた。


「べーくん。そろそろガツンとしたもの食べたいなぁ~」


 あなた、プララたくさん食べてたよね? そろそろか使いどき間違ってね?


「胃袋大丈夫なのか?」


 特異体質でもタケルやアリザとは違う。そこまで胃袋は丈夫じゃねーだろうに。


「全然大丈夫だよ」


 まあ、本人が大丈夫だと云うなら構わねーが、ガツンとしたものってなんだよ? 肉か? せめて辛いのとか濃いのか言えよな。


「オレは煮魚が食いてーな」


 この潮の香りがする中、頭が魚になっているよ。ねーとなるとよけいに食いたくなるな。


「海にでもいってみるか」


 海に出れなくても海岸から漁をしているはずだ。小魚があったら油で揚げて食うとしよう。


 まずは港を目指し、漁港のことを聞いてそこにいってみる。


 多くの小舟が陸に上げられ、乾いた網が干されていた。


「やはり漁はできてないみたいですね」


「そうだな。何人かは危険を冒してでも漁に出るもんなんだがな」


 漁をしなくちゃ食ってけねー。運を天に任せるヤツは必ずいるもんなんだがな。そういうヤツはもう死んじゃったか?


「釣りをしているヤツもいねーな」


 あの暴竜は岸近くまでくんのか?


 海の近くまでいってみるが、そう深いとも思えねー。あのサイズならここまでこれねーだろうよ。


「魚はいるみたいだね」


 小アジみたいなのがたくさん泳いでいる。ここのヤツは食わねーのか?


「べー様。漁師っぽい方が集まってますよ」


 レイコさんが指差す方向に漁師のおっちゃんたちが集まっていた。


 とりあえずそこにいってみる。


「おっちゃんら、ここの漁港の人かい?」


「ああ、そうだが?」


「そこにいる小魚、捕ってもイイかい? 金がかかるなら払うからよ」


 銀貨一枚出してみせた。


「小魚なら好きに捕りな。集まりすぎて売り物にもならんものだからな」


「金にならんのかい? 食えんだろう?」


「食えはするが、捕れすぎて余ってんだよ」


 なるほど。過剰供給されてるってことね。


「じゃーよ。オレが買うから捕ってくんねーかな。一網銀貨五枚で買うからよ」


 自分でやったほうが楽だし金もかからんが、それだと恨まれっちまう。買えるものなら買ったほうがイイ。後腐れねーしな。


「箱があるならそれも売ってくれや。ちゃんと箱代も出すからよ」


 ズボンのポケットから銀貨を数枚出す。


「坊主、本気か?」


「本気さ。おっちゃんらはクリンシュ族のロイ……なんだっけ?」


 名字? 家名? なんだっけ?


「ロイ・マイゼンドさんですよ。珍しく覚えたと思ったらべー様はべー様なんですから」


 名前がわかればイイんだよ。いや、ダメな状況ですけど!


「オレらそのロイ・マイゼンドさんところに厄介になってんだけど、おっちゃんら、知ってるかい?」


「ここら辺で知らねーもんはいねーよ。大お得意様だ」


「へー。魚がなくて困ってたのに、小魚は買わねーのかい?」


「あれは足が早い。何日も移動する隊商は買い上げてくれないんだよ」


 ほんと、魔法魔術があるのに氷を創り出すとかしねーから不思議だよな。誰かやってみねーのか?


「そばかすさん、氷って出せるか?」


「小さいのなら」


「ちょっとやってみ」


 と、手のひらから氷の粒を出した。


「これだけか?」


「時間をかけていいのならもっと出せるよ」


 右足でドン! と地面を叩いて土の箱を創り出した。


「よし、この中に入れろ。旨い魚料理を作ってやるからよ」


「しょうがないなー。本当に時間がかかるんだからね」


「問題ねー。時間はいっぱいあるからよ」


 太陽はまだ高い。暗くなるまでガンバれ、だ。


「おっちゃんたち。小魚を捕ってくれや。捕っただけ買うからよ」


 さらに銀貨を出してみせた。


「よし! 人を集めろ! 船を出すぞ!」


 おっちゃんらのかけ声で漁師たちが動き出した。

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